ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

レノ

「父や私達を見ればほとんどの人が驚くわ。多分それが普通。特に父の言葉は人には判らないし、私達や母だっていくつかの決めごとにそって理解してるだけ。長く住んでるとは言っても村の人たちとは一定の距離があるの」

「私達も子供の頃は喧嘩するのに足を使ったりもしたし、危ないからって遠ざけられても仕方なかったのよね」

「今は持ちつ持たれつ、ってくらいにはなってるし、生きてく上で困ることはないわ」

穏やかに話す二人に、シアンは聞いても構わないことなのだろうか、と少し躊躇ったらしいが、

「親父さんは外から来た人なの?」

と口にする。

「父は村の生まれよ」

「私達は知らないけれど、祖母は普通の"人"だったみたい」

シアンの顔にうかんだ疑問の色に、二人は『私達も聞いた話だから…』と前置きをして話し出した。

「狂獣…鳥だったらしいから狂鳥とでも言うのかしらね。何年前のことなのかよく分からないけど、ちょうどこの時期、祭の時に村のそばに出たらしいの。森の中で襲われた女性が狂気にあてられて、話も通じないような状態に…」

「…それが祖母。元々、村の人間じゃなかったらしいけど、詳しいことは分からない。当時の村長が祖母の事を放っておくことも出来ないだろうと村で看ることにした」

「何ヶ月かして、祖母が身篭っていることが分かって、生まれたのが父」

「祖母を襲った狂鳥は翼が四枚あったらしいわ」

レノの片親が狂鳥だとゆう二人をシアンは訝しがっていたが、シャトの家で聞いた話を思い出し、それがレノと二人のことだったのか、と気がついた。

 

女性は赤ん坊を産んですぐに亡くなり、当時の村長は村人の反対を押してその子を育てたとゆう。

人の言葉を話すことは出来なかったが、理解は早く、時々訪ねてくる獣遣いの協力もあって、文字を学んだ。

それでも村人の多くは異形の子を受け入れることはなく、村の端に建てられた小屋でその子は幾人かの助けを借りながら一人で暮らしていた。

村の子等を指導するため冬場にだけやってくる魔術師の元で魔力の使い方を学び、水と大地の魔力で畑仕事に精を出す。

子が青年と呼ばれる程に成長したある年の事、魔術師がどう調べたのか、奇妙な話を携えて村へとやって来た。

"亜人、獣人、魔獣にかかわらず、多種族の特徴を有するものは皆、その始まりに狂気の影がある"つまりは、この世界の種の多くは狂獣の子が始まりだとゆう。

狂獣の血は徐々に薄れていくとゆうが、一度に多くの子を成す獣、特に群れを成す者は交配の固定が進み、一定の姿形をとる"種"としての型が出来上がる。

青年もその一例の最初の一人だろうと、魔術師は言う。

青年は長い間そのことについて深く考えることもなく、魚を捕り、野菜を育て、静かに暮らしていた。

村長が亡くなり、村人も代替わりしたが、青年はある頃から外見に年の重なりが見えなくなる。

手を貸してくれる者達の顔ぶれも変わっていくが、青年は青年のまま。

このままどれだけの時間を過ごすのだろう、と青年が思いはじめた頃、一人の少女が青年の畑の手伝いにやってくるようになった。

少女は快活でよく笑い、青年の元で過ごす時間を楽しんでいるようだった。

少女が年頃になると、村人達はその様子に気をもんでいたようだったが、そんな周りの目を余所に、少女は青年と共にしたい(※)と口にする。

青年自身も村人達も少女を止めたが、少女の意思は固く、いつしか青年もその気持ちを受け入れ、村人は半ば諦めたように首を縦に振った。

 

※この世界で"結婚"を意味する語。