ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

シャト再び

夜の見張りを決める事になったが、魔獣も盗賊の類もそう出ない場所で、周りに簡単な結界の代わりになる紐を張った事もあり、一人ずつでも問題はないだろう、とシアン、マチルダ、カティーナの三人が火の番を兼ねて順に見張りにつくことになった。

シアンがあまり寝ていないだろうシャトを寝かせておきたいらしいことに加え、マチルダはアーキヴァンが一人で夜中の見張りにつくのは避けているらしく、"自分も"と言い出したシャトをシアンが押し止めた以外はすんなり決まり、時間はまだ早いがシアンを残して四人はそれぞれの幕へと向かっていく。

 

シアンは日の出と日の入りを記憶させた時計がわりの魔石を眺め、一人火のそばでナイフを研いでいた。

何かの動く気配に振り返るが、誰かが起き出した訳でもなく、結界代わりの紐にも変化はない。

耳をそばだてると、少し離れた場所でかさかさと何かが動く音が聞こえたが交代の時間までにそれ以上何かが起きることもなく、マチルダを起こすと『特に何もなかった』と伝えて自分の幕へと戻る。

チルダだけではなくアーキヴァンも起き出しているらしく時々微かに話し声がするが、二人が何か事を起こす様子はない、とそう時間が経たない内に眠りに落ちた。

 

日が登り、大きな鳥の声に続いてカティーナとマチルダが交わす挨拶と、鍋に何かが当たるような鈍い金属音を聞きながら身体を起こしたシアンは、髪を縛り直して外に出る。

「おはよう」

「おはようございます」

すでに朝食の準備にかかっているらしいマチルダとアーキヴァンと挨拶を交わしたシアンは、何を思ったのか急に隣のシャトの幕の入り口を開き、ぱっと振り返る。

「シャトは?」

「見ていませんよ。カティーナさんは水を汲みに」

「おいカティーナ! シャトは?」

坂の上から大きな声で尋ねるシアンに、坂の途中からカティーナが声を返す。

「下にはいらっしゃいませんよ?」

「…何処行ったんだよ」

幕の中はもちろん、周囲にシャトの姿はなく、カティーナとシアンは眉を寄せて顔を見合わせている。

今はすでに外されている結界代わりの紐は、囲われた中から出るだけならば何の障害にもならないが、戻るには中に居る者が招き入れる必要がある。

夜、一度は確かに幕へと入ったシャトだったが、誰にも気付かれることなく外へと出て、未だ戻っていない、マチルダやカティーナと話したシアンはどうやらそうゆうことらしい、とシャトの幕の中を覗き込む。

荷物はないが、入り口すぐのところに置かれた重しとして石ののった紙に気付いて手を伸ばしたシアンは、そこに書かれた文字を見て額を手で覆うように頭を抱えている。

「どうしました?」

シアンは眉をしかめ、声をかけてきたカティーナにひらひらと紙を見せる。

「少し出てきます。出発迄には戻ります」

「シャトさんからですか?」

「そうなんだろうな…全く何考えてんだか」

怒っている、とゆうよりは呆れているといった風のシアンに、カティーナは一歩近付くと、小さな声で、

「夜、シアンさんが見張りについていた頃にオーリスさんが来ていた様ですが、何か関係があるでしょうか?」

と尋ねた。

チルダやアーキヴァンは調理の手を止めて二人の様子を窺っているようだったが、わざわざ小声にする必要があるかどうかはわからない。

ただ昨日のシャトはオーリスのことには一切触れていないはずで、カティーナはそれを意識しているらしかった。

ティーナに言われて始めて夜中の何かの気配と動く音を思いだし、改めてシアンは嫌な顔をする。

「シャトさんはまたお出かけなんですね」

「らしい。悪いね、落ち着かなくて」

「いえ、それは構いませんが、ご迷惑だったでしょうか」

"一緒に行動をしていることが"とゆうことなのだろうと、シアンは首を傾げる。

「どうだろ? 私達も長く一緒って訳じゃないけど、比較的分け隔てない…とは思う…」

シアンはそれまでの事を思い返して、悩みながらもそう言った。