ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

雨の後 7

その日の夜遅く、ガーダの家にリファルナとレイナンが集まっていた。

群れの皆はすでに寝ているのか、家の中は暗く静かで、三人が集まった部屋でリファルナの発する柔らかな光だけが微かに外に漏れ出ている。

「カティーナに会ってみてどうだった?」

ガーダの問い掛けに、リファルナは『ふふっ』と笑い、レイナンを見る。

「レイナンが虐めてたわよ」

「別にそうゆうつもりじゃない。ただ…」

「言うことがシャトと似ている気がして落ち着かなかったのよね? …ちょっとわかるわ。でも、あの目はねぇ…」

リファルナの言われて、レイナンは口をきっと結び、嫌な顔をしている。

「シャトはどうしてるの?」

「中庭でオーリスが見ている。幕は張ってあるが、あれでいいのか? 休むには寒いだろう」

「シャトにとってはオーリスのそばが一番だ。さっき様子を見にいった時にはうなされていたが、オーリスが居れば問題ない…」

「嫌な夢見てるのね。無理に寝かせるんじゃなかったかな…」

「眠らずにいる方が心配だ。…話を戻してくれ」

「なんだっけ? あ、カティーナさんか。不思議な感じだったわ。外から来たって聞いたし、ノクイアケスの人間とは違うだろうなって思ってはいたけど、人よりは精霊に近いかな…?」

「精霊…?」

「分からないけどね、なんとなく、そんな感じ」

ガーダは腕を組み、レイナンは棚によりかかるようにして天井を見上げている。

リファルナはそんな二人を眺めながら湯気の上がるカップを口に運び、ふぅと冷ましたかと思うと、その湯気を手に乗るほどの馬の形に変え二人の間の空間をまるで走っているかのように操った。

レイナンは呆れたようにしながらもその馬を目で追い、ガーダは近くまで来た馬を強い息で吹き飛ばす。

「ああ、もう! せっかく綺麗に出来たのに」

「北に行って来たと聞いたが、ずいぶんと元気なようだな」

「だって精霊の皆の力を借りていたし、今日したのは家捜しくらいだもの。シアンさんも誘ったんだけど、精霊は苦手だって断られちゃった。北のことで自分は役に立たなかったって言ってたわ。スティオンからメモ貰ってくれただけでずいぶん助かってるんだけどね。今日はスティオンの家片付けながら他に何かないか探してくれてたみたい」

「あの魔術師居ないのか?」

レイナンは尋ね、身体を起こすと湯気の立つカップをリファルナに『冷たくしてくれ』と差し出す。

リファルナが触れると見る間にカップの内側にそって氷が張り、手に冷たさが伝わってくる。

「もうここで暮らしては居られないと出て行った。護衛が必要かと思ったんだが、誰も気が付かないうちに居なくなっていたそうだ。それで、北はどうだった?」

「臭いがひどいわ。精霊達のおかげで亀裂は広がってはいないみたいだけど、何か力がかかってるのは間違いない。スティオンのメモと照らし合わせてそれらしい資料見繕って来たし、出来るだけ早くどうにかするわ」

「いっそそのまま街に住まないか?」

「やめてよ。私が嫌われてるの知ってるでしょう?」

リファルナはガーダの提案にあからさまに嫌な顔をした。

「さっさと終わらせて帰るわ」

それからも三人は街のことや嵐についてあれこれと話していたが、話の切れ間に『さ、て、と』とリファルナが立ちあがった。

「シアンさんが片付けてくれたし、北から持ってきた物もスティオンの家だから、今日からあそこに泊まるわ。何かあったら呼びに来て」

「送ってくか?」

「要らないわよ。何かあっても大怪我させないようにするから、安心して」

リファルナの冗談にガーダとレイナンはふっと息を漏らし、戸口まで送りに出る。

「レイナン、私はあの二人なかなかいいと思うわよ。クラーナもそう思ったみたいだし、シャトが落ち着いているようなら言ってみるといいわ。うん、じゃあ、また明日」

言うだけ言うとさっさと背を向け、眩しいほどの明かりで当たりを照らしながら離れていくリファルナを見送り、ガーダはレイナンを見下ろした。

「撫でられて笑っていたぞ。立場は逆だが、昔のシャトとウラルのようだった」

「オーリスに聞いた。あと、お前がシャトをどうにか帰らせようとしたと怒ってたぞ」

「あぁ、オーリスと交渉しようとしたが失敗した。だがやはり無理にでも帰すべきだったな」

「いや、まだわからないさ」

二人は部屋へと戻ってからも、明け方近くまで家族や街や群れについて取り留めもなく話し続け、ろくに眠りもせずに翌朝を迎えた。