ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

傭兵団の陣へ

安全を優先するなら街道沿いに進むべきなのだが、シャトは迷わず森に分け入った。

この辺りでも、しばらく雨は降っていないようで、道とは言えない足元も荒れてはいるが歩き辛いとゆうほどではなく、特にシャトの後を追って行くと比較的歩き易い場所を選んでいるのか足が遅くなることもない。

ただ周囲に精霊の姿は殆ど無く、何者かの強い視線を感じる度シアンは振り返り、どちらかといえば警戒しているように見える。

が、木々の混んだ森の中を行くのをあまり好まないらしいオーリスが周囲の上空を駆け回っていて、そのせいか視線の主も他の生き物達もこちらを窺っているだけで襲ってくる様な気配は無い。

森の中をほぼ真北に向かって進むシャトにシアンが尋ねた。

「森の中にその"陣"があるのか?」

「いえ、この森を抜けた先はひらけていて、そこに大きな岩山が…。陣を敷くならその近くのはずです」

 

一本の街道を横切り、さらに森の中をしばらく行くと、木々が疎らになり、開けた視界の先に岩山が見えた。

周りは草地でその岩山だけが平坦な地面に突き出すようにそびえている。

疎らな木々の間を抜け、オーリスが空から下りてきた頃には日が傾いていたが、岩山のそばには確かにいくつも幕が張られていて、少し距離はありそうだったが東には街の影も見える。

「このあたりで少し待っていて貰えますか? さすがに何も言わずに外の人を連れて行ける場所ではないので…」

少しだけ申し訳なさそうに言ったシャトだったが、オーリスに乗ると勢いよく幕の張ってある岩山の麓へと駆けていく。

残された二人は目を細めるようにシャトが向かった先に視線を向けているが、オーリスが足を止めると数人の人が周りに集まって来て、シャトの姿はすぐに紛れてしまう。

 

シャトの帰りを待ちながら空を見上げたカティーナは、シアンに西の空を見るように促した。

そこの先にはオーリスよりもさらに大きいだろう数体の魔獣が夕空を背に飛んでいたが、その行く先はどうやら岩山らしく、二人は岩山に向かって駆けだそうとする。

しかしそれとほぼ同時にオーリスに乗ったシャトがこちらへと戻って来る姿が見え、二人は踏み出しかけた足を止めた。

岩山からも魔獣の姿は見えているだろうが、その周囲が騒ぎ立てることもなく、シャトが二人の元へと戻った時には魔獣は岩山のそばに降り立っていた。

「おまたせしました」

「…あ、あぁ。シャト、あそこに居るってゆうか、今下りてきたのは?」

シャトは首を傾げて振り返り、その先の魔獣の姿を見たが、

「下りてきたのは皆誰かしらのパートナーです」

と事もなげに言う。

岩山のそばに居る魔獣達は日常的に人のそばに居るような種ではなく、シアンの顔は驚きからか、不安からかは判らないが若干引きつっている様にも見えた。

「どうかしました? …明るいうちに皆に紹介したいんですが、すぐに向こうへ行っても構いませんか?」

「あ、うん。ありがとう」

お礼を言う場面では無い気もするが、シアンが応えるとシャトは微笑み先に立って歩き出す。

 

岩山が近付いたところでどこか見覚えのある後ろ姿に首を傾げたシアンが『キリオ?』と悩みながらも声にする。

距離を考えるとその声が聞こえたとは思えないが、周囲から若干浮いたような薄青い髪を持った子供は、ちょうどそのタイミングで振り返り、小首を傾げて微笑んだ。