ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 11

ウラルとガーダの家は森の近くにあった。

この街の家は丸太で組んだ骨組みの間に、土で固定しながら石を積み上げることで壁を作るが、その一軒一軒がずいぶんと大きく、ウラルとガーダの家も例外ではない。

「これで一つの家なのか?」

シアンがそう言うと、ウラルは笑って答える。

「私達は群れで生活しているので。…群れって言っても分からないかな? うちの場合は両親の他に二夫婦とそれぞれの子供達で一つの群れです。少ない方ですけど、全部で十五人が一つの家で暮らしています。長老達のところにずらっと雄が並んでませんでしたか?」

シアンは薄暗い部屋の中を思い出し、『あぁ』と言ってこくこくと頷いた。

「あそこに並んでいるのはそれぞれの群れのリーダーなんですよ。この街にはあそこに居る人数分の群れと、あとは狼の群れがいくつか出たり入ったりしながら暮らしています。さぁ、中へどうぞ」

家の中は余計な物も無くすっきりと整えられている。

一つ一つの物の大きさや床のあちこちについた深い爪痕に、種族の違いから来る形質の差を改めて感じるが、建物自体に人間の家との大きな違いはなさそうに見える。

通された部屋から見える中庭では、いつのまに移動したのか、オーリスが小さなイマクーティ達の遊び相手をしているようだった。

「あの子達は?」

「一人は私の弟で、あとの二人はそれぞれ群れの別の夫婦の子です」

「なんか、不思議な感じだな…」

「そうですか? 一つの群れが家族みたいなものなんですよ? …まぁ狼の群れとも人間の家族とも違う形みたいですけれど。イマクーティとしてはこの形が当たり前なんです」

そう言いながらウラルはシャトと二人で床に大きな分厚い布を広げる。

「こんなものだけで悪いですが…くつろいでください」

ウラルが部屋を出ていくと、シャトは靴を脱ぎその上にあがった。

風が入らない分暖かい気はするが、シャトがローブを脱ぐことはなく、リュックだけを下ろすとその場に座る。

「みんな床に座ってたけど、ここではあれが普通なんだな」

と、シアンも布の上に腰を下ろし、ブーツを脱いだ。

明かりとして魔石が一般的な人の街ではあまり見かけない蝋燭が置かれていたり、南には無い植物が干してあったりとシアンにとっては珍しい物が多いらしく、棚の辺りをしげしげと眺めている。

その一方でカティーナは立ったまま中庭を見つめ、シャトに問い掛けた。

「あのスティオンとゆう方は普段からああなのですか?」

シャトは身体をカティーナに向けるように座り直し、頬にかかった髪を耳にかける。

何と答えるべきかと悩んで居るようだった。

「私や父のことを、あまりよく思ってくれてはいないようです。今日も私が席を外していればもう少し違ったかもしれません。皆さんと打ち解けてはいないそうですが、この街に住んでらっしゃるんです…本当に関係がないと思っているとは思えません…」

「あの人なら関係ないと思っていても驚かないわよ」

湯気の立つ木のカップを乗せたお盆を持って戻ってきたウラルは、呆れたようにシャトを見下ろし、そしてしゃがみ込む。

「シャトが思ってるよりずっと私達の関係は悪いの。最近じゃ皆、魔石を頼みに行く回数も減ってる。シャトもおじ様も悪くない。もし悪いとすれば私達とスティオン本人よ」

ウラルはそう言うと、俯くシャトにカップを差し出した。

シャトはそのカップを受け取りはしたが、ウラルの言葉には応じない。

仕方がないな、とウラルはそれ以上魔術師の事は口にせず、

「お二人もどうぞ、この辺りの薬草でいれたお茶です。普段私達が飲むものだから香りや何かは物足りないかもしれないけど、温まりますよ」

とそれまでとは打って変わって明るい声を出す。

シアンは礼を言ってカップを受けとり、すぐに口元まで持っていったが何かを考えるように動きを止めた。

三人の視線が集まると気まずそうにこめかみの辺りを掻き、三人それぞれの顔を順に見る。

そして、言うなら今か、と町での出来事を話し出した。