ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 18

なかなか回復しない二人を眺めることに飽きたのか、ナガコは撫でるのをやめ、オーリスを相手に、シアンとカティーナに向けたものと同質の魔力を範囲を狭めて次々に放つ。

その魔力に捕まらない様に、オーリスは大きく跳んで避けることをまるで遊びの様に繰り返し、何度か避けるたびにナガコに向かって風の刃で攻撃をしかける。

「当たらないぞ、ほら」

ナガコは風の刃を指先でいなしながら、手を替え品を替えオーリスの邪魔をする。

火球を放ち、地形を変化させ、風を巻き起こす。

いかづちを落とし、水の鎖で枷を付け、壁を這う蔦を伸ばし絡め取る。

「オーリスの負けだな」

笑ってはいないが、目元が優しい。

オーリスはもう一回とせがむ様にナガコに向かって鼻を鳴らしている。

 

「あれ、いつもああなの?」

やっと身体を起こしたシアンは、ナガコとオーリスの戯れの終わりを待ってそう聞く。

「えぇ、そうですね、良く相手をしてくれます。それよりシアンさん、身体、平気ですか?」

「ああ、身体は平気みたい。魔力は切れたけど…」

あぐらをかいたシアンはナガコを眺めため息をついた。

今度はオーリスと蔦を引き合い力比べをしているらしい。

「シャトさん達は、あの方にとって特別な様ですね…表情がまるで違う」

ティーナの言葉にシャトは首を横に振る。

「ナガコさんにとって私達が特別なのではなく、私にとってナガコさんが特別なんです」

シャトは本心からそう言っているらしかった。

そこにナガコから声がかかる。

オーリスとの力比べは引き分けとゆうことにしたらしい。

「シャト、薬草はどうだった?」

「試しにと思って摘み始めたところでナガコさんが何かしてるって言われて戻ったんです、あとでもう一度行ってきます」

「そうか…ふん、私が行ってこよう。オーリスが居れば分かるだろう」

そう言うとナガコはオーリスを撫で、岩から身体を起こす。

「摘んだものがいくつかありますから、それと同じくらいの色味の葉を選んで下さい。小さな一束になる位あれば十分ですから」

シャトが特別畏まることもなくそう言うと、ナガコは頷き、オーリスを伴って洞窟の奥に姿を消す。

シャトとナガコの間では遠慮とゆう物はそう要らないらしかった。

「特別かどうかは置いとくとしても、ずいぶん気に入られてるんだな」

シアンは皮肉ではなくそう言う。

ナガコの人となりはこの短時間では見えてこないが、少なくともシャトに好意的であるのは間違いのない事だった。

「キリオもよく来るのか?」

「ほぼ毎日来ているんじゃないでしょうか? 家では魔力の扱い方を教えられる者が居ないので、ナガコさんにお願いしているんです」

「あの勢いでしごかれてるのか…?」

キリオの方が頑張った、とゆうナガコの言葉を思い出しシアンは苦笑いをする。

「今からでもまだ伸びるかね?」

「…シアンさんがですか?」

ティーナが聞き返すとシアンは頷き、水筒の残りを飲み干す。

「持って生まれたものは土台で、その上に努力と経験て言うだろ? 魔力に関して努力した覚えが無いからさ、何かしたら違うかと思ったんだけど、どう思う?」

ティーナもシャトも何かを考えていたようだったが、答えない。

二人の様子に首を傾げ、シアンは中身のなくなった水筒をもう一度口の上で逆さにした。