ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

北の街へ 1

立ち入るだけで怒りをかうと言われる精霊の住処の近くやファタナの林、薬草の宝庫だとゆう深い森、シャトの案内で一帯をずいぶん見て回った。

キリオを迎えに行くジーとはしばらく前に別れ、今はまた三人と一匹だ。

 

間もなくシャトの家が見えてくるとゆうところで、どこからか狼の遠吠えが聞こえ、シャトは立ち止まり耳を澄ました。

遠吠えは何度も繰り返され、ひときわ大きい一鳴きを最後にやむ。

「ごめんなさい、ちょっと、先に行きます」

シャトはそう言うとオーリスに飛び乗り、オーリスはそのまま風のように駆けていく。

「また…シャトはいつもひとりで行っちゃうのな」

「…何かあったんでしょうか?」

「たぶん狼の声だけど、この辺には居ないってシャトが言ってたぞ?」

二人は少しだけ足を早め、シャトの家に向かう。

 

家に付くとリュックを背負い、ローブを抱えたシャトが家から出てくるところだった。

間もなく夕暮れだ。

「どこ行くの?」

「ちょっと北の街まで…わざわざ訪ねてくださったのにすみません。よければ今日も泊まっていって下さい」

「いつ戻る?」

「行ってみないとなんとも…」

シャトは申し訳ないとゆう顔をする。

シアンがカティーナを見上げると、カティーナは言いたいことを理解したらしく頷いた。

「ご迷惑でなければ、ご一緒させていただけませんか?」

シャトはどう答えたらいいものかと、悩んでいるようだった。

そこにクラーナが家の中から姿を見せ、二人に向かって『おかえりなさい』と微笑み、シャトに向かって頷いてみせる。

「二人が良ければ、シャトと一緒に行ってあげて。用意が済むまでお待ちします」

二人は揃って頭を下げると荷物を取りに家の中へと消えていった。

シャトは何を気にしているのか、不安げにクラーナを見つめている。

「大丈夫よ、おかしな事なら断ればいいんだから。それよりも、せっかく訪ねてくれたんだから、一緒にいられる時間を大切になさい」

シャトが小さく頷くと、クラーナは声を張り上げる。

「リーバ! ティカ!」

畑の向こうからジーより幾分小柄な雄山羊が二頭並んで走ってきた。

「山の麓まででいいの。オーリスと一緒に行ってくれる?」

山羊達はクラーナにすり寄る。

「ありがとう。お願いね」

クラーナは一度家の中に入るが、水筒と保存食が入った包を二つ用意するとすぐに戻ってきた。

荷物を抱えたシアンとカティーナが家から出てくるとそれらを差し出す。

「これを。あと…二人共、冬場でも使えるようなローブは持っている? 北はこちらより余程寒いわ」

二人が持っていないことが分かるとクラーナはすぐに二枚のローブを用意して渡してくれた。

「この子達に乗っていって。…気を付けて」

シャトはオーリスの背に乗り、シアンとカティーナもそれぞれ山羊に跨がった。

「行ってきます」

シャトの声でオーリスが走り出し、山羊達もそれに続く。

クラーナは見えなくなるまで、その後ろ姿を見送り呟いた。

「大変な事じゃないといいけど…」

 

北の山の麓まで人が歩けば四時間ほどかかるが、山羊の脚ならば空が黒く染まるまでには着くだろう。

オーリスはリーバとティカを気にかけているのか、時々後ろを気にしているようだったが、二頭は心配は無用とばかりに角を振ってオーリスをあおる。

大小三つの白い影が薄暗い森と森の間を駆け抜けると、驚いた鳥達が雲一つない空へと一斉に飛び立って行った。