ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 3

林を抜け、街に入るとイマクーティはもちろんだが狼の姿も見受けられた。

ガーダが辺りを見回し、誰かに手を挙げてこちらに来るようにと合図をすると、周りのイマクーティ達とは少し毛色の違う一人が走って来る。

その姿を見ながら、ガーダは身体を屈めシアンに耳打ちをした。

「あれは力は強いし体もでかいが、気が弱い、何かがあったら自分の身は自分で守るつもりでいてくれ」

シアンは眉を寄せるが、何かを言おうとした時にはすでに呼ばれたイマクーティが目の前についていたため言葉を飲み込んだらしかった。

「シャトさんお久しぶりです!」

ガーダよりさらに一回り身体の大きな若い雄は、シャトに覆いかぶさるのではないかと思えるほど近付いて挨拶をするが、シャトにとってはいつものことなのか特に驚く様子もなく挨拶を返している。

「お久しぶりです」

「タドリ、シャトに会えて嬉しいのは分かるが、用があるのはこっちだ。このお嬢さんに街を案内して差し上げろ」

タドリはそこにシャト以外の人がいるのに気がついていなかったらしく、驚いたのか身を竦め、情けない声をあげた。

「辺りのことには詳しいし顔も広い、それにその毛色なら慣れない者でも見分けられるだろう。案内役にはお前が適任だ」

「タドリさん、案内、お願いできますか?」

ガーダとシャトに言われて、タドリは小さく頷いた。

「タドリです。よろしくお願いします」

「シアンです、よろしく」

シアンはどこか不安そうだったが、ガーダは気に留めることなく、

「じゃあ頼んだぞ、私達は長老の所に居る、何かあったら呼びに来い」

とタドリに言うとさっさと背を向けて歩き始める。

「シアンさん、またあとで。タドリさん、シアンさんのことよろしくお願いします」

シャトはそう言い、カティーナは軽いお辞儀をするとガーダのあとを追っていった。

残されたシアンはタドリを見上げると、辺りのイマクーティ達と見比べる。

「確かに見分けられないかもしれないな…」

「すみません」

脈絡なく謝るタドリにシアンは苦笑いして、その背を叩く。

「君でよかったって言ってるんだ、案内、頼むよ?」

「はい…でも何を案内すればいいでしょう?」

「とりあえず海に行きたいんだ。そこまでに何かあるなら教えてよ」

シアンはタドリと並んで歩き始める。

人が珍しいのか辺りのイマクーティも狼もシアンを見ているが、声をかけて来る者は居ない。

「人はやっぱり珍しいのか?」

「街に住んでいるのは一人だけですし、尋ねて来るのはシャトさんとご家族くらいですからね」

シアンはふーんと言って辺りを眺めていたが、

「シャトとかその家族ってこの街でどんな風に思われてるの?」

と、気になっていた事を尋ねた。

「南とこの街とを繋ぐ大切な方達です。もちろんシャトさんもご家族もいい人ですからそれだけの関係じゃ無いですよ、中にはあまりよく思ってない者も居るようですが、シャトさん家族と仲良くしてる者はたくさんいます」

「タドリはシャトが好きなんだね」

「シャトさんは僕にとっては英雄ですから」

予想外の答えにタドリを見上げ、その顔をまじまじと見るが、慣れないシアンではイマクーティの表情を読むことは出来なかった。

「からかってる?」

「からかってなんか!!」

タドリは焦ったように手を振り否定をし、

「十年くらい前、シャトさんに命を助けられたんです…」

と、シアンに昔のことを話し始めた。