ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 4

その日は間もなく冬を迎える街に荷物を届けに来た父親について、シャトも遊びに来ていた。

寒さは厳しくなってきていたが、いつもと変わらない穏やかな日。

シャトはオーリスと一緒にイマクーティの子供達と林の中で遊んでいた。

まだまだ体も小さく、すでに今と変わらない大きさだったオーリスと並ぶと、潰されてしまうんじゃないかと心配になるくらいだったが、今以上にいつも一緒でいつも楽しそうだった。

街が騒がしくなったことに気がついた子供達が連れだって走り出すと、シャトもオーリスによじ登って後を追う。

どうやら海で何かが起きたらしいと、辺りにいた大人達も海に向かって走っていた。

 

海が近付くと、大人達が『危ないから海には近付くな』と怖い顔で子供を捕まえては注意をし、家に戻らせようとしている。

シャトと一緒に遊んでいた子供達は、そんな大人達を避け、街の外を回って海に向かっていく。

海岸沿いを見渡せる岩場に身を隠しながら覗いた海は真っ赤に染まり、大声を上げる大人達の手には長い銛が握られていた。

大人達が集まる先の海を見ると、地形の関係でこの入り江には入って来られないはずの、大型の海獣の姿が海岸付近の水面から見え隠れしているが、どうやら暴れて舟を壊し、近付くものには容赦なく攻撃をしているようだった。

 

遅れてその場に着いたシャトはその光景に衝撃を受けていた。

海獣の叫び声が辺りに響き渡る。

シャトを乗せたオーリスが、銛を構える大人達に向かってすごい勢いで駆けていく。

「止めてぇ!!」

シャトの叫び声とともにオーリスは大人達と海獣の間に割って入った。

「怪我して、怖がってるだけ!! 子供が居るの! 守りたいって!! もう、痛いのやだって、苦しいって…」

突然の出来事に躊躇う大人達、岩場に隠れていた子供達はシャトを追って来ていたが、そのうちの一人が岩場に足を取られて海に落ちると、見境の無くなっている海獣はその音に反応したのか子供に向かって大波を立てた。

「だめぇ!」

そう声を上げると同時にシャトは冷たい海に飛び込むが、波は落ちた子供を飲み込み、シャト自身も暴れる海獣のまわりにおきた渦に飲まれていく。 

呆気に取られる大人達、子供の姿が見えないことも、シャトが浮かんでこないことも、目に映っているが、それが行動に繋がらず、ただその場に立ち尽くしていた。

岩場から走ってきた子供達はそんな大人達を尻目に、海の中に落ちた子供とシャトの名を呼び、姿を探す。

はっとした大人達が走りだそうとした時、離れた岩場の近くにシャトと子供の姿が見えた。

小さな海獣が二人を背に乗せて海面付近を泳いでいる。

 

誰よりも先に二人に駆け寄ったのはオーリスで、海獣の背から二人を岩場へと移し、風と波飛沫から二人を庇うように身体を屈める。

シャトはオーリスに濡れた身体を預け、がくがくと震えながらも、そばを離れようとしない小さな海獣に声をかけ続けているようだった。

子供も無事で、シャトの腕にしがみついてしゃくりあげている。

赤く染まった海は何事もなかったかのように静かで、暴れていた海獣の姿はどこにもない。

大人達が助けに来たのを見て安心したのか、シャトはそこで意識を失ったらしかった。