ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

曇り空

その夜はシアン、カティーナ、シャトの順に見張りにつくことになったが、オーリスの陰に休む二匹の魔獣を気にしているのか、シャトはカティーナが休んだ後もシアンと一緒にしばらく起きていた。

「あの子達、名前は?」

膝に乗ったキーナを撫でながら、ぼんやりと魔獣達の方に視線を向けていたシャトはシアンに尋ねられてそちらへと顔を向けたが、潤んだような瞳が火を映してきらめいているにもかかわらず、その表情には生気とゆうものが感じられない。

普段のシャトとは違うその顔に、シアンは戸惑い、口を開こうとして噛んでいた枝をぽろっと落とすと、シャトとその枝の間で視線を行き来させ、結局そのまま枝を拾うと黙ってシャトの返事を待ちながら、汚れた枝を折って改めてナイフで皮を剥いでいく。

シャトはシアンの動きを目だけで追い、しばらくその手元を見つめていたが、小さく乾いた響きの声で『聞いていません』と答えると、何かを見つめているようで何も見ていない、そんな様子で闇に視線を向けた。

シアンはそれ以上何かを尋ねることはせず、静かにナイフや魔石の手入れをしながらその目の端では絶えずシャトをとらえ、どうするべきか、と様子を窺っていた。

そんなことを続ける内にいつのまにか随分と時間が過ぎ、そう経たずにカティーナが起き出して来るだろうとゆう頃になって、シャトは立ち上がり、オーリスを一撫ですると『休みますね』と幕の中に姿を消す。

独りになったシアンはふぅーと何処か安心したように息を吐き、噛んでいた枝を折って吐き捨てると頭を抱え、"どうにも噛み合わないな"と苦い顔で笑い、星の光る空を仰いだ。

 

「何してるんですか?」

交代の時間になると、最終的に地面に寝転んで空を見上げていたシアンを覗き込むようにカティーナが声をかけ、シアンが見ていた辺りの空を見上げて首をひねった。

天気が崩れるのか、雲が増え星はもう見えない。

「何してるように見える?」

「考え事、とゆうのが一番それらしいかと」

「そか。まぁいいや、交代よろしく」

シアンは寝た状態からぽんと跳ねるようにして立ち上がると手をひらひらと振り、『おやすみ』と結局何をしていたのかを答える事なく姿を消した。

ティーナは一度首を傾げると、昨夜と同じように荷物から引っ張り出した布を広げ、ゆっくりと一針一針縫い進めてゆく。

いつの間にかその手元をオーリスが覗き込んでいて、カティーナは優しく頭を撫でる。

「特にお話をされていた様子はありませんでしたが、何かあったのですか…?」

ティーナはあまり眠っていないのか、そんな風に尋ね、頭を撫でていた手で長く垂れたオーリスの耳に触れ、そこに残る薄い傷跡を指でなぞった。

もちろんカティーナは答えを期待したわけではなかったが、オーリスは悲しげな顔でカティーナに擦り寄り、そのままカティーナを囲むように身体を伏せると、小さく鳴いて目を閉じる。

「…おやすみなさい」

ティーナは手に載せたオーリスの耳を二、三度親指で撫でると、そう言って再び針を手にする。

"シアンさんは他人のことを気にしすぎるのかも知れませんね"カティーナは一瞬そんなことを考えたが、曇った空を見上げるとまた手にした針を動かし始めた。