ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

シアンとカティーナが夕食の片付けを終えたのを見計らったかのように戻ったシャト達だったが、大きい方の魔獣はゆっくりながら自分の足で歩き、その代わりとゆう訳ではないがオーリスの背には小さい方の魔獣がしがみついてシャトは腕にキーナを抱えていた。

「おかえり。キーナ久しぶり」

焚き火から少し離れた場所に独りで座っていたシアンが声をかけると、キーナはきらきらと火を映していた大きな瞳を細め、何のつもりかシアンに向かってぷっ、ぷっ、と草や小さな石ころを飛ばし、もぞもぞとシャトの胸の方を向いてしまう。

「まだ怒ってんのか?」

そう言いながらも、怪我をさせるつもりはないらしいな、と、勢いなく飛んできた石ころを受け止めたシアンは手の中でからからと弄び、そのうちの一個を左手に持ち直すとゆっくりと魔力を込め、飴細工のように、とはいかないがゆっくりと形を変えていく。

「不格好だなぁ…」

どうやらキーナの姿を作ろうとしたらしかったが、シアンの手の中に有るのはその辺の川辺に落ちている角の取れたただの石に申し訳ばかりに二つの凹みがついただけ、といったところで、こめかみをかりかりと掻くとそのまま他の石と一緒にころころと足元に転がした。

するとそれまでシャトの腕の中に居たはずのキーナがぱっと消えたかとおもうと、シアンの視線の先、転がった石のそばにぱっと現れシアンは突然の事に目を丸くする。

キーナは転がった石と枝を口の中に戻すとまたぱっと姿を消し、今度はオーリスのそばに現れまたぽとぽとと草と石を地面に点々と置きながらオーリスの陰に隠れる。

「キーナ、あれじゃ解らないでしょう?」

シャトはキーナを窘めるように言ってからシアンに『ごめんなさい』と困ったように微笑んだ。

「いや、別にいいけど…何? 解らないって」

「あの子達が食べられる物を出していたんです。シアンさんにあげてほしかったみたいで…。それと、さっきシアンさんが形を変えていた石が気に入ったそうです。何かを作ったんですか…?」

「あー、んー、んー」

なんと答えたものか、とシアンが悩んでいるうちに水を汲みに行っていたらしいカティーナが戻り、『お帰りなさい』と言うとシアンを横目に大きな布バケツになみなみと入った水をシャトに差し出した。

「皆さんもお水召し上がりますか?」

「はい。…ありがとうございます」

「このままで平気ですか?」

「あっ…キーナ、お願い」

キーナの姿はオーリスの毛に紛れてはっきりとは見えなかったが、シャトの声に応えるようにぼんと大きな盥が現れた事でカティーナもそこにキーナが居ることを認識したらしかった。

「キーナさん、ありがとうございます」

ティーナが盥に水を流し込むと、オーリスとキーナ、そして小さい方の魔獣だけが盥を囲むように近づいていく。

「えっと…あの方は召し上がらなくても大丈夫なのですか?」

うずくまるように地に伏せた魔獣は眠いかのように細めた目をゆっくりと閉じては開きとゆう動作を繰り返し、動く気配は見せていない。

「ええ、少し休みたいみたいですから、そっとしておいてあげてください」

シャトはオーリスの下ろした魔石を拾って明かりを落とすと、少し心配そうにそちらを見た後で『ありがとうございました』とカティーナに差し出した。