きな臭い
「次の街、そろそろ見えてもいいと思うんだけどな」
日が傾き始め、そろそろ野営がしやすそうな場所を探そうか、とゆう頃、シアンは何処から出したのか、今にも破れそうな古い地図を片手に伸び上がるようにして街の影を探していた。
「街がどうかしたんですか?」
「どうせ仕事探すなら街の近くで野営したいだろ。一度に稼げなくても簡単に済む…街の中での荷運びとか…そうゆうのに運良くありつけるといいんだけどな」
「仕事を探すのですか? シアンさんはガーダさんから頂いた石を売るつもりなのだとばかり…」
カティーナに言われて半笑いのような微妙な表情を浮かべたシアンは『それでも構わないけど』と言ったものの、一度ため息をつくと真面目な顔で口を開いた。
「現物持ち歩けるものはいざって時まで取っておいてもいいだろ? 正直相場もわかんないし。まぁ、いざって時、とは言っても足元見られるのはごめんこうむりたいけどな」
「足元…?」
「すぐに金が必要で切羽詰まってるだろうって安く買い叩かれるとか、そうゆうこと。…あ、あれか?」
シアンが指を指した先には岩山があり、目を凝らすとその間に溶け込むようにしていくつもの家屋があるのがわかるが、その場所からでは人の姿は見えず、シアンは少し首を傾げている。
「静かだな。この少し先から北に分かれる道があるんだけど、シャトの家に行くときにはそっち通ったからこの辺は初めてなんだよな。あの街人住んでんのか?」
「人の気配はあるようだと、皆言ってます」
シャトはそう言うとオーリス達と顔を見合わせて続ける。
「この子達を連れて街に近付かない方がいいと思うので、私は向こうに見える森の辺りで休みやすそうな場所を探してますから、用がすんだら落ち合いましょう。姿が見えないようなら呼んでくださればオーリスがお迎えにあがりますから」
「解った。カティーナは?」
「街の方へ付いていくつもりですが、必要ありませんか? 仕事を請けるとなれば手があった方がいいと思ったのですが」
「仕事があるかどうかも分からないけどな。じゃあシャト、またあとで。気をつけてな」
シャトは微笑んで頷くと街道から外れ、少し離れた森へと向かっていく。
今はまだ明るいが、暗くなるまでにもうそんなに時間はない。
強い風に舞い上がった赤茶色の砂埃を避けるように足を速めたシアンは、街に近付くと片方の眉をしかめるようにして辺りの様子を窺った。
「見られてるな」
「えぇ、そのようですね…」
「カティーナ、あの街駄目だ。このまま街には入るけど、適当に歩いてさっさと出るぞ」
「何かあるんですか?」
「正直半分は勘だけど、あそこ、今よそ者を受け入れる感じじゃない」
シアンの勘は当たっていたようで、街に近付くと二人を睨みつけるような男達が三人、四人と姿を見せる。
「こんにちは」
シアンはその顔に少し困った顔で挨拶をすると、いつもの遠慮ない態度とは違い、何処かおどおどとした様子で男達に声をかけた。