ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

「シアンさん、どうしたんですか? 何処までいくつもりです?」

「何人いたかはわかんないけど、表に出てきてた男達とは別にずっと見てる奴が居ただろ? ここで街道外れるのはまずい」

「…。それはシアンさんが嘘ついたからですよね?」

「いや…。まぁ、そうだけど」

「見られているのに気がついた時に迂回すればよかったのでは?」

「んー、気付いたのはシャトと別れてからだったけど、いつから見られてたのか判んなかっただろ? 街の中でもしてたけど、刃物の手入れに使う油のにおいとか、獣と血のにおい…風に乗ってきてたから嫌な感じはしたけど途中で道をそれて変な言い掛かりつけられても嫌だしな。それでもさっさと街抜けようと思ったから適当な話作ったんだ。途中からは完全に興味が勝ったけどな」

自分に呆れたように口元を歪ませたシアンはちらっと街の方を振り返り、その流れで森の方へと視線を向けたがそのまま街道を横切るように流れる川にかかる橋を越える。

ティーナは納得したようなしていないような微妙な表情をしていたが、一度だけ森を振り返り、『それで?』と歩きながらシアンに先を促した。

「自衛の為なのか喧嘩ふっかけようとしてるのかはしらないけど、とりあえず街の中全部が戦いに備えてるって感じだったろ。西の水場にこだわってたとこ見ると相手はあの嫌な感じの猫か、そうじゃなくてもあの辺りに住んでる奴なんだろうな」

街道が緩やかにカーブを描き、街が岩や木々に隠れて直接見えなくなるのを待って、シアンは…やはりその場からは見ることのできない…シャトと合流するはずだった森の方向に目星をつけて街道を外れ、開けた場所に出ないように気をつけながら木々の間を抜けていく。

まだ空は薄明るいがすでに日は沈み、街道沿いならばまだしも二人の周辺は本来ならば明かりが欲しいところ、とゆう暗さだったが、人目につくのを避けてシアンは明かりをつけることはない。

「シャト大丈夫かね…街に近付くことはないだろうし、街の方でもシャトに興味はないだろうけど、やっぱちょっと気になるな」

独り言のようなシアンの声を聞きながら、カティーナは街での出来事を思い返し、シアンが何を考えていたのかを推し量ろうとしていたが、最終的に首を捻るようにして『街の中で何を見せたかったのですか?』と口にした。

「あ? あの街、周りの岩とか何かと同じ赤土で建物が出来てたのに一画だけ木の壁が見えてただろ?」

「あ、はい。ありましたね」

「あそこ、何か感じなかったか?」

「何かと言われても…特に気になるようなことはなかったと思いますが」

「あそこ、たぶん何か飼ってるんだよ。肉を食うような大きい獣か何か。獣遣いがいるんだろうけど、魔獣なのかと思ったからカティーナ何か感じてるかと思ったんだけど、何もないのか?」

シアンは眉を寄せて『わざわざ結界でも張ってるのかね』と言い、一度言葉を切ると立ち止まって耳を澄ませた。

ときおり吹く風が揺らす枝葉の擦れる音、静寂を裂くように響く何処か間抜けな鳥の声。

川もあり、辺りを見れば木の実をはじめとして生き物達が口にするであろう草木が多いのにもかかわらず、地面や草木には生き物の痕跡がほとんどなく、シアンは聞こえてきた音とそれらを合わせると、どうにも落ち着かない、と暗い森の中を見回した。

「あの猫、やけに獣遣いを嫌ってたけど、なんか、解った気がするわ」

再び歩き出したシアンはそう口にして木々の向こうにわずかに見える街の陰に苦い顔を向けていた。