祈りの洞窟 11
洞窟の最奥部はずいぶん入り組んでいるが、シャトとオーリスは何かを目印にでもしているのか、ほとんど迷いなく駆け抜けていく。
今までで一番とゆうくらいに広い空間に出ると、行き止まりなのか、辺りに道らしきものは見当たらず、大きな泉が広がっている。
シャトはオーリスの背から降り、ゆっくりと泉に近づいて行く。
「私はシャトと言います!! イロンさんはいらっしゃいませんか!?」
泉のそばでシャトは声を張る。
自分たち以外に誰もいない空間に声が響く。
「お渡ししたいものがあるんです!!」
そう言って耳を澄ますシャト。
あたりは静まり返っている。
その静けさの中、シャトは寂しそうに顔を伏せた。
『懐かしい匂いがする』
低く優しい声が聞こえる。
シャトは顔を上げ、泉の奥の岩陰から、白銀の身体の一角獣がゆっくりと現れ、水面を歩くのを見た。
オーリスよりもさらに大きく、泉の石とよく似た深い青色の角と、牛に似た身体を持った魔獣。
洞窟に響いていた強く低い音、それは泉の上に立つ魔獣の嘶きだった。
シャトは深くお辞儀をし、魔獣に向かって口を開く。
「私はシャトと言います。イロンとゆう方を探しています。片方の目に大きな傷のある、貴方と同じか、近しい種族の…」
魔獣は1度目を閉じ、ゆっくりと開く。
『…イロン…か、あれには名があったのだな…』
「ご存知なんですね?」
『知っている』
「お会いしたいのです。どこに行ったら会うことができるでしょう!?」
『会うことは、出来ない』
「何故ですか?」
魔獣は答えない。
シャトを見下ろしているが、その表情は読めなかった。
静かに時が過ぎていく。
魔獣は顔を上げる。
『何かが来る…妙な気配だ…』
シャトは振り返り、耳を澄ます。
かすかに聞こえてくる足音。
できる限り音を立てないようにしているのが伝わってくる。
その足音がこちらを伺うように止まると、ずいぶん遠くからだが、走っているような音も聞こえてくる。
魔獣が威嚇の為か、ひときわ大きく嘶く。
低く剣を構えたカティーナが姿を見せた。
「無事でしたか…」
シャトの様子から警戒の必要はないと判断したのか、体の力を抜く。
『金の髪…お前か、私の家族を傷付けたのは!!』
魔獣は踏み鳴らすように蹄を水面に打ち付ける。
すると周囲の水が宙に浮き上がり、拳大の球体を形成したかと思うと、先の鋭い円錐へと形を変える。
「待って!! 違います! あの人じゃないの!!」
シャトは必死に魔獣に訴える。
「あの人は関係ないの!!」
カティーナは状況が飲み込めず、再び剣を構え直す。
『何が違う! 見ろ、闘う気だ』
シャトは振り返り、カティーナに向かって叫ぶ。
「剣をおろして!! 闘わなきゃならない相手じゃない!!!」
シャトは魔獣に向き直る。
「あの子に聞いてもらえば分かります!! だから、やめて!」
「さっきから、話しかけているようですが、伝わっているのですか…?」
カティーナには魔獣の声はただの咆哮にしか聞こえない。
そこに息を切らしたシアンが飛び込んできた。