ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 10

シャトは二人のそばまで来ると改めて頭を下げて言う。

「先程はありがとうございました」

女は胸の前で、いやいやいや、と手を振り、

「私達何もしてないし」

と困ったように笑う。

そして、シャトとオーリスを均等に眺め、真面目な顔で続ける。

「時間あるなら、少し話してかない?」

シャト達に少し興味が湧いているようだった。

 

女は自分から名乗った。

「私はシアン、出身はイムオース、よろしく」

「イムオース?」

シャトは聞き返す。

「東の海沿いの街だよ」

シアンはそう言ってから、連れを促す。

「私はカティーナと言います」

ティーナは静かに頭を下げ、シャトもそれにならう。

「私はシャト、この子はオーリスです。…イクトゥ・カクナスの生まれです」

オーリスも挨拶をするように頭を下げ、それからシアンとカティーナのそばを鼻をひくひくさせながら行ったり来たりする。

「何だ、美味しい物は持ってないぞ?」

そう言いながらシアンがワシャワシャと顎の下あたりを撫でるが、オーリスは逃げも嫌がりもせず、じっとしている。

シャトはふふっと笑って『めずらしいね』とオーリスに向かって言い、

「この子、普段はよく知った人にしか触らせないんですよ」

と、どこか安心したような表情をシアンに向けた。

その顔を見ながら、シアンは口を開く。

「さっき、人を探してるって言ってたけど、こんな所に誰がいるの?」

「あ、その、居るかどうか分からないんです。ただ、渡さなきゃいけない物があって。偶然手がかりを、とゆうか、もしかしたらって思って、何も考えずに来てしまって…」

シアンが撫でるのをやめると、オーリスはカティーナの前に行き、撫でてもいいぞと言わんばかりに身体を寄せた。

ティーナは二人の話を聞きながら、オーリスを撫でている。

「手がかりって?」

シャトは『それです』と泉から引き上げられた青い石を指差す。

そしてリュックをおろし、青い石の入った包を取り出し、開いてみせた。

「ずっと西の街ですが、市でこれを見かけて、話を聞いたら今この石が取れるとすればここだろうって教えてくれて…」

「見せてもらっていい?」

シアンはシャトが差し出した包から1つ取り上げるとしげしげと眺める。

石の質を見ていた時のように、左手の指を鳴らし火を灯す。

「石自体はそんなにいいものじゃなさそうだけど、彫りは手が込んでる…素敵だね、これ」

シアンはそう言って、石をシャトに返した。

「これを作った人を探してるの?」

「いえ、あの…作ったとゆう訳じゃ…」

シャトは言いよどみ、顔を伏せる。

「いや、ごめんね、言いたくなければいいんだ」

「すみません、なんて言ったらいいか、難しくて…」

石を包み直し、リュックにしまう。

シャトは続けて口を開きかけたが、洞窟に響き渡った低く強い音に目を見開く。

シアンとカティーナも思わず武器に手をかけていた。

空気の震えが収まったかと思うともう一度同じ音が響き渡る。

シャトは弾かれたように立ち上がり、

「ごめんなさい、私、行きます」

と走り出す。

オーリスがその後を追い、隣に並ぶとシャトはその背に飛び乗った。

ものすごい速さで洞窟の奥へと駆けていく。

 

シャトの姿が見えなくなるとシアンは、はっとし、横に投げ出したあったブーツに飛びつく。

「先に行きます」

ティーナは一足先にシャトを追って走り出す。

響き渡った音から、それぞれ、強大な魔獣の存在を感じ取っていた。