ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 9

洞窟をずいぶん深くまで潜った先、大きな泉のそばの岩に先程の二人連れが腰を下ろしている。

ブーツを脱ぎ、ズボンの裾と袖とを捲り上げた女の手には、シャトが市で買ったものより、更に深い青色の石が握られている。

女は左手の指をパチンと鳴らす事をきっかけに、人差し指の先に小さな火を灯し、石を透かして眺めている。

「話に聞いた通り、深い場所の石のほうが質がいいらしいな」

 

この石は魔石として扱われるものでは無く、そのままなら魔除けのお守りとして、更には一定の加工を施すことで高価な宝飾品として市場に出回る。

加工をしていない石は、年月を経ることで、青味は薄くなり、魔除けの効果も弱くなるため、深い青色の石ほど高値で取引されている。

ただ、深い青、つまりは強い力を宿したままの石は、宝飾品としての加工を施すには硬すぎるため、加工出来るぎりぎりのラインを見極め、どれだけ深い青を残せるがが商品の価値になってくる。

シャトが買い求めたのは、その過程で出た屑石に細工を施したもの。

お守りにもなる土産物とゆうところだろうか。

 

「これからどうしますか? まだ奥に?」

連れは聞きながら、女が泉から引き上げた石の水気を切り、布で拭いては傍らの袋に放り込んでいく。

「気乗りはしないな、ここまでの地図も情報も正確だったけど、だからこそ怪しいんじゃないか、ってとこか」

「ここより先の石なら倍額でもいいと言われましたからね」

「…初見の旅人に振る話じゃない…地図では奥にまだ泉が二箇所あるように描かれてるけど、何か有るのか、何か居るのか…」

二人はそれぞれ仕事を受けた先での会話を思い返しているようだった。

「とりあえず、奥に行くならここの石を持ち出せるように準備してから…」

女の言葉に連れがふふっと笑う。

「もし逃げ出す時にはそれを掴んでいけ、とゆう事ですか?」

「金もないんだ、ただ働きはごめんだろ」

女は一度高く投げ上げた石をパシっ、と小気味のいい音をたてて掴み、そう言った。

「さて、もう一働きしますか」

と立ち上がり伸びをする。

その時連れが顔を上げた。

「何か、来ます」

「何かってなんだよ…?」

連れは首を傾げ、『そこまでは』と言ってわざとらしく微笑んだ。

女は弓をとり、連れも立ち上がり剣の柄に手をかける。

「靴、履いてないんだが」

「さすがに置いては逃げませんよ」

女はくくくっ、と喉を鳴らし、矢をつがえた。

 

明かりが近づいて来るのがわかる。

相手からもこちらの明かりは見えているだろう、だが、歩みに変化はない。

 

あと五歩、三歩、一…姿を見せたのはシャトとオーリスだった。

 

「何だ、君か」

と言ったが女は矢から手を離すことはしない。

地図も無く、これだけ深くまでやって来るには相応の時間がかかるはずだ。

大して疲れてもいないようだし、何より、少女一人でここまでやってくる理由に思い当たらなかった。

シャトは二人が警戒しているのを見てとり、立ち止まる。

「先程はありがとうございました。私、ヒトを探しているんですが…」

シャトの後ろからはオーリスがどこか楽し気にこちらを覗いている。

二人は顔を見合わせ、少し悩むが警戒を解く。

シアンは手の中の弓矢を見ながら、

「あー、ごめん、さすがにこれはなかったな…。…よかったらこっちおいでよ」

と、シャトを呼ぶ。

シャトは頷くように小さく頭を下げて、二人の方へ歩き始めた。