ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 6

洞窟につくまでの間に、黒髪の娘や追い剥ぎの二人組に出会うことは無かった。

女は村で受け取った地図とは別の地図を広げ、言う。

「さて、どうする? 洞窟に居るとすれば祭壇の方だろう、って言われたけど、下に降りる道とそれは別みたいなんだが」

「本気で聞いてますか?」

「…冗談だよ」

女はつまらなそうに口を曲げ、地図をたたみ、準備にかかる。

連れは洞窟を眺めながら尋ねる。

「そういえばさっき聞いた、うさぎ、とゆうのは何ですか?」

連れの言葉に女はわざと冗談かどうか判断しづらいトーンで答える。

「小さくて可愛い食用肉だ」

連れはきょとんとした顔で首を傾げた。

 

二人は、棒の先に下げた魔石の明かりと地図を頼りに足早に祭壇へと向かっていく。

ずいぶん進んだが、変わった事は何も起きていない。

祭壇までの道のりは残りが三分の一とゆうところだろうか。

「次の分かれ道左、それからはしばらく一本道」

「何も出ませんね…」

「出ないなら出ないほうが良いだろう…?」

「まぁそうですが…」

分かれ道に差しかかろうとゆう時、二人の耳が何者かの叫ぶような声を捉えた。

そして同時に走り出す。

「今の女の声だったか?」

「おそらく」

「くそっ…」

二人は走り続ける。

「次、曲がったら、また左」

女の息が上がってきた頃、微かだが人の声が聞こえてきた。

少し先に明かりが漏れているのが見てとれる。

二人は速度を緩め、自分達の明かりを落とし、それぞれ武器に手をかける。

「居るな」

「人だけじゃないようですよ、何か、居ます」

出来るだけ静かに、明かりの漏れている方へ近付き、そっと覗き込む。

「は…?」

思わず漏れた女の声に、黒髪の少女が振り向く。

シャトだ。

シャトの横には地面に膝を付きどうにか倒れるのを堪えている様子のヴィートの姿、奥にはシーナが倒れている。

どうなってんだ、と状況を把握出来ない女は短剣から手を離すことなく、シャトに質問を投げる。

「君、洞窟に来る前、近くの村に寄った?」

シャトは訝しげな表情を見せるが、ゆっくりと頷いた。

「村の人たちが心配してたんだ、追い剥ぎにあってしまってたら、って」

その言葉にヴィートが無理に立ち上がろうとする。

「あ、いいのいいの、無事ならそれで。追い剥ぎをどうこうするのは頼まれてないから」

目の前で何かがおきれば戦わざるを得ないだろう、とは思っていたが、この状況は完全に想定外だった。

女は警戒を解き、続ける。

「必要なら村まで送るけど、どうする?」

「まだ行きたいところがありますから…」

と言ってシャトはお礼のつもりで頭を下げる。

「一人で平気?」

「一人じゃないので、大丈夫です」

女はシャトの視線をたどり、驚いた。

それまで存在に気がついていなかったが、オーリスがすぐ側で連れと顔を見合わせている。

「何か居ると思ったのは、この子のようですね」

「…兎…」

「この子がうさぎですか…」

連れはオーリスをまじまじと見つめている。

「あ、いや、普通はもっと、小さい、けど…」

女はふるふると頭を振って、大きく息を吐く。

そんな事を気にしている時間は無い、と自分に言い聞かせているようだった。

「えっと、そっちの二人も大丈夫? 気乗りはしないけど、洞窟の外くらいまでなら手を貸すよ?」

ヴィートはゆっくりと首を横に振る。

「そう…まぁ、いいけど。じゃあ、私達、もう行くから、君も気を付けて。出来るなら帰りに村に寄ってあげて」

「ありがとうございました」

シャトは言い、オーリスはそれに合わせて頭を下げる。

二人は驚いたが、少し笑ってオーリスに礼を返すと、振り返ることなく去っていく。

 

その背を見送りながら、ヴィートはシャトと自分達の間に起きた事を思い返していた。