ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 5

それより少しだけ時を遡り…

 

洞窟からそれほど遠くない、草原と砂地の合間の村に続く道。

その道をゆく旅人らしい二人連れの片方が口を開く。

「あれか? 一番近い村ってゆうのは」

生地の丈夫なゆったりとしたズボンとごついブーツ、襟が肩口まで大きく開いた織りの粗いシャツを身に着けた幾分小柄な若い女

口をきつく結わえた袋の紐を持ち、肩に担ぐようにして後ろに下げている。

腰には短剣と弓、矢筒を帯び、陽を受けて赤く光る銀色の髪を頭の後ろで遊びなくすっきりとまとめた姿はなかなかに凛々しい。

もう一人がのんびりと村を眺め、『思ったより遠かったですね』と応える。

中性的な顔立ちで、背は女より頭一つ分程高く、落ち着いた声をしている。

全身を覆うようなローブを着ているが、この暑さに汗ひとつかかず、ゆるく編み込まれた金色の長い髪、その後れ毛が風にそよぐさまは涼しげですらある。

 

村の入り口にさしかかると、それまで何かを相談していたらしい数人の村人が二人に目を留めた。

二人の頭の上から足の先まで遠慮なく眺めると、顔を見合わせ近づいてくる。

「少し、頼まれてはいただけないでしょうか」

唐突な言葉に、女は抱いた不信感を隠そうとはせず、

「いや、いきなり言われても…」

と眉を寄せた。

村人は詫び、事情を説明する。

 

話をまとめると、 

近頃この辺りには追い剥ぎなような事をする二人組が現れる。

人を傷つける事はあまり無いようだが、どうにかしなくては、とその二人組を捕まえようとした村の若者数人は、軽いが怪我をし、縛られた上に猿轡を噛まされて帰ってきた。

旅人も立ち寄ることがある為か、精霊の洞窟の周辺に1番現れやすいのだが、それを知らなかった老人が村に立ち寄った若い娘に洞窟への道を教えてしまった。

襲われているかもしれないから迎えに行ってやりたいが、鉢合わせしたら、と思うとなかなか行く者が決まらない。

いっその事大勢で行くかと話していたのだが…。

とゆう事だった。

 

「その格好から察するに、腕に覚えのある方かと、不躾に…」

村人は改めて頭を下げる。

「賊をどうこうしてくれなどと図々しい事は言いません、娘さんが無事かどうか、見てきてくださるだけで良いのです…」

女はこめかみの辺りをかりかりと掻き、連れを見上げる。

連れは、かまわないでしょう、とゆう表情で頷いてみせる。

「どっちにしろ、洞窟に行きたくてここまで来たので、道さえ教えてもらえれば…あーあと、水を分けていただけると助かります」

女の言葉に、村人はほっと息を吐き、水と地図の用意にかかる。

女は、ふと気が付き、村人に尋ねる。

「その娘さんの特徴は?」

「特徴ですか、…黒髪だったとゆう事くらいしか…あ、あと白い兎をつれていたそうです」

「黒髪と、兎…」

分からないことはないか、と女はぼんやりと考え、自分でこくこくと頷く。

連れはそれを横目に、追い剥ぎの特徴を尋ねていた。

「金髪の女と、大柄な男で、どちらも日に焼けた肌だとゆう事ですが…それ以上のことは…」

 

地図と水を受け取った二人は、三人と一匹の頼りない特徴を心に留めて洞窟へと向かっていった。