祈りの洞窟 4
「どうする?」
シーナは冷たい声で問いかける。
シャトの表情に怯えはない。
問いかけには答えず、シーナを真っ直ぐに見つめていた。
入り口から聞こえる羽音、岩壁から滲み出した雫の落ちる音、小さなはずの音がその空間にやけに響く。
張り詰めた、とゆう程の空気ではないが、オーリスはじっと様子をうかがい、ヴィートは剣の柄に手をかけ何かがあればすぐに動けるように構えている。
続く沈黙が、徐々に重さを増していく。
その沈黙を突然シーナが破った。
「あ"ぁー! もう、鬱陶しいなっ!」
と、入り口に向かって3本のナイフを構え、そのまま勢いよく放つ。
「駄目っ!」
シーナがナイフを構えると同時に飛び出したシャトは、ナイフの軌道に割って入る。
まるで空を蹴り、飛んだかのような動きで…。
ナイフの1本を手甲で受け、1本をいつの間に取り出したのか短剣で弾き落とすが、受けきれなかった最期の1本が闇に吸い込まれる。
ギーーー!! っとゆう鳴き声とともに、闇の中から1つの小さな影が転がり出た。
人間の赤ん坊程の大きさのコウモリのように見えるが、草食獣のような小さな角が生えている。
アブトスと呼ばれる魔獣の一種だった。
片方の翼の付け根辺りから血が染み出している。
「…っ!」
シャトは強く歯を噛み駆け寄る、しかし、アブトスは暴れて近づかせようとはしない。
「大丈夫、傷を見るだけ、ね、お願い」
鳴き声はあげ続けているが、シャトの言葉が伝わったのか少しだけおとなしくなる。
「大丈夫、翼は傷ついてないよ、でも、血は止めなくちゃ」
アブトスの手当をしようとするシャトを見て、シーナは言う。
「何してるの? それは魔獣でしょう? 害になるからって、駆除の依頼が出るような」
傷付いたアブトスに、とゆうよりは"魔獣"と呼ばれるもの達すべてに対してか、声に嫌悪、もしくは憎悪、そういった類の感情が乗っている。
「…この子が、貴方に何かしましたか?」
シャトは振り向くことなく、自分を抑えるように、低く静かにそう言うと、リュックをおろした。
中を探り、液体の入った小瓶や布を取り出す。
そのやり取りの中、オーリスはゆっくりとシャトの傍へとやってきた。
「魔獣の味方なんだ?」
答えは返らない。
「ねぇ、無視?」
苛ついているのは傍目にも明らかで、ヴィートが『落ち着け』と肩に手をかけるが、その手を振り払い、シーナは一歩踏み出す。
そして片方の手を肩の前で強く握り、指を弾くように勢いよく開く。
その開かれた手の中には魔力で生み出された炎が、荒々しく渦巻いていた。
シャトは気付いていないのか、背を向けたまま手を止めることはない。
「やめろっ」
ヴィートが止めにはいるより一瞬早く、シーナは大きく腕を振り、渦巻く炎をシャトに向かって打ち出していた。