ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 19

分かれ道まで戻ると、魔獣はシャトにだけ伝えるつもりで言葉を紡ぐ。

『この先には、身勝手な人間に傷付けられた者、いわれなく虐げられた者、そうゆう者たちが多く居る。これからも人間を招きいれるつもりはないが、お前なら歓迎できるやもしれん。私は命尽きるまでこの洞窟で暮らす…いずれまた、訪ねてくるといい』

シャトはまた複雑な表情を見せるが、静かに頭を下げ、そのあとでかすかに笑顔を見せた。

『途中にいくつか縦穴があるが、お前たちがいれば抜けられるだろう』

魔獣は、シャト達が入ってきたものとは別の出口を教え、数匹のアブトスを案内につけてくれる。

「ありがとうございました」

シャトは言い、改めて深く礼をする。

シアンとカティーナもその隣で軽く頭を下げ、出口へと向かって歩き出す。

 

オーリスの助けを借りながら縦穴を抜け、なだらかな坂道を登っていく。

しばらく行くと、道の先が開け、日が差しているのが見て取れた。 

アブトス達は頭上で数回、挨拶の代わりか円を描き、洞窟の奥へと戻っていく。

「ありがとー」

その背にかかるシャトの声に小さな鳴き声が返る。

「獣遣いも、いろいろだな…」

シアンの言葉に首を傾げるシャト。

「いや、いいんだ。…こっちの話」

日差しの下に出ると一行はあたりを見回し立ち止まる。

そこは切り立った崖の上部に開いた横穴だった。

穴の横の急なガレ場をよじ登り、開けた崖の上に出る。

シアンとカティーナは改めてあたりを見回した。

「なんでこんなとこって思ったけど、下に降りられる道があるんだな…」

「最初の入り口からもそれほど離れてはいないようですね」

「さて、どうする? シャトも一緒に行く?」

シアンに聞かれ、シャトは首を横に振る。

「いえ、私はここで失礼します。知り合いにいろいろ預けたまま飛び出して来てしまったので、早く戻らないと…」

「そっか、じゃあ村の人たちには私等から無事だったって言っておくから、まっすぐ帰りな」

「あ…! ありがとうございます…忘れていました…」

そう言って困ったように笑うシャト。

その顔に笑顔で応えると、『それじゃ』とシアンは手をあげ、カティーナは頭を下げて歩き出す。

シャトもその後ろ姿にお辞儀をし、オーリスの背に飛び乗った。

オーリスはシャトを乗せたままぐーっと伸びをし、勢いよく走り出す。

 

どこからともなくふいた風に、シアンが振り返ると、背にシャトを乗せ、風を纏って空を駆けていくオーリスの姿が飛び込んでくる。

「ぉおー、空を跳んで…!」

どこか楽しそうにその姿を見送るシアンに続いて空を見上げたカティーナは、小さくなりはじめたシャト達の姿に真面目な声で言う。

「…そういえば、どちらかとゆうと、大きくて強い、でしたね」

シアンはぽかんとした後で、声を出して笑い、からかったつもりだった、と軽い調子ながらも詫びているようだった。

そして、一般的な兎がどんな生き物か、とゆう事について話しながら、改めて村に向かって歩き出した。