ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 17

泉を挟んだ対岸には、岩の陰に隠れてはいたが、奥へと続く道がぽっかりと口を開いていた。

シャトは隣を歩くシアン達に、先を行く魔獣の事を話し始める。

「さっきあの方は、洞窟を荒らす人たちをこの先に通したくない、とおっしゃっていました。奥には人を避けて暮らしている方々が居るそうです。上で、あの…お二人に最初に会った時、怪我をしてしまっていた子がいて…それで、カティーナさんを見て、傷付けた相手かと思ったらしくて…」

「それで襲われかけたのか?」

ティーナを見上げ、『悪人顔はしてないと思うけどな』とシアンは真面目な顔で呟いている。

それを横目にカティーナはシャトに尋ねる。

「探していた方、見つかりそうですか?」

「分かりません。あの方もご存知ではあるらしいのですが、会えない、と言われました」

「…そうですか」

だんだんと広く高くなる道の先からいくつもの羽音が聞こえてくる。

数匹のアブトスが、魔獣を迎えるように辺りを飛び回り、頭や背の上に降り立つ。

その中の一匹がシャトのもとにやって来て、頭上でくるりと円を描く。

「よかった、思ったより元気みたいで」

身体に包帯を巻いたそのアブトスに向かってシャトが両手を広げると、アブトスは躊躇いなく、その胸に向かって飛び込んでくる。

ぽすっとシャトの胸におさまったアブトスはシャトを見上げて鳴き、シャトは嬉しそうに抱え直すと、そのまま歩いていく。

「あの、シャト、それって…」

「お友達です」

シャトの答えに、害はないのか、と言いかけたシアンは口を噤んだ。

不必要に傷つけるつもりは無いが、だからといって魔獣と呼ばれるもの全てを受け入れられるかといえばそんな事はなく、獣遣いがどんなものかを知っているシアンも少しばかりシャトの様子には驚いていた。

「沢山いるようですね」

ティーナは特別何も感じていないのか、辺りを見回し、岩壁に休んだアブトスや、その他比較的小さい魔獣たちが身を寄せ合いながら、先を行く魔獣の後を付いて歩いていくのを眺めている。

「人を避けて、と仰いましたが、私達から逃げたりはしないのでしょうか?」

「あの方のこと、信頼しているみたいですね。あの方が連れてきたなら大丈夫だと、言っている子たちがいます」

先を行く魔獣は低く鳴くと、分かれ道を左に進んでいく。

その場で立ち止まってしまったシャトに、シアンが声をかける。

「どうした…?」

「…会わせてくれるそうです」

「あ、え…それって、私等も行って平気…?」

「来るな、とは言われませんでした…」

「それなら、見失ってはいけません、行きましょう」

シャトはカティーナに促されて再び歩き出す。

よほど思い入れがある相手なのか、シャトの表情は緊張と安堵が混ざったような複雑なものになっている。

 

気が付くと、小さな魔獣達の姿は無く、アブトスもシャトの腕の中の一匹だけになっていた。

腕の中のアブトスが『ここは入ってはいけないの』とシャトに教え、飛び上がると来た道を戻っていく。

道の先にはまた泉が見えている。

そのほとりに佇む青い影に、三人は息を呑んで立ち止まる。

 

そこには、全身を深い青色の結晶に覆われた魔獣の姿があった。