ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 16

「知らない事は知らないでいいから、嘘つかないで正直に答えてくれる?」

明らかに年下のシアンからそう言われ、弓遣いは苦い顔をしながらも頷く。

「私達がここに居るって知ってたよな?」

「先に洞窟に潜っている奴がいるとは聞いた」

「それだけか?」

「直接聞いた訳じゃないが、当て馬がどうこう、言っていたらしい…」

シアンは溜め息をつき、『当て馬ねぇ…』と呟いている。

いつの間にかすぐそばまでやって来ていたカティーナが、

「洞窟に入っているのはここにいる八人だけですか?」

と聞く。

ティーナが闘っていた相手は、手足を縛られた上でその辺に転がされているが、槍の男の胴鎧は外され、剣の男の手には布が巻かれている。

「そうだ。八人だけだ」

「あなた方の目的は?」

「そこに沈んでいる石だ」

「それだけですか?」

ティーナは冷たい指先で男の頬に触れながら、質問を続ける。

触れた周囲には薄っすらと氷が張り、男は怯えたように答えた。

「この洞窟以外ではあの石はあまり見られないから、量を確保したかったらしい! 洞窟の中はここ以外調べ尽くされている。ここから先にまだ空間があるのでは、と以前から人を出していたそうだ。だが魔獣が邪魔をするから…!」

「あなた達が荒らしていたんですね」

そのシャトの声に、その場にいた全員が一瞬心臓を冷たい手で掴まれたような、表現の出来ない不安感に襲われた。

近付き、すぐそばに座り込むシャトに弓遣いは、ずりずりと後ろに逃げようとする。

「あ、いや…俺…違う…」

「…何もしません…傷、見せて下さい」

「あ…あぁ」

シャトはリュックを下ろして必要そうな物を並べていく。

「シアンさんも、これ、良ければ。当て布と包帯、あとは痛み止めくらいしかありませんが…」

「あ、ぉお。ありがとう」

シアンはシャトの差し出したそれらを受けとると、その場でシャツを脱ぐ。

シャツを脱いだシアンは帯状の革を身体の前で編み上げた下着のような物で胸を覆っただけの姿だが、人目を気にする様子も無い。

自分の傷を指でゆっくりとなぞると、「思ったより深いか…」とつぶやき、カティーナの手を借りて、包帯で傷を覆っていく。

そうしながら、目の端ではシャトの様子を伺っていた。

シャトは当て布に血止めの薬草を挟み、出来る限り傷に響かない様に矢を引き抜くと、服や靴を避け手際よく手当てをし、包帯を巻いていく。

その動きに先程の不安感を与えた声の影はなかった。

「痛み止めです、辛ければ」

弓遣いは躊躇いながらもそれを受け取り、ぎこちなく頭を下げる。

 

また泉の水がカーテンの様に揺らめきながら立ち上がり、その中から魔獣が姿を見せる。

全員の視線が集まると、魔獣は咆哮を響かせた。

魔獣の足元だけを残し、泉の水が、意思を持ったように八人の男たちを飲み込み、徐々に速度を上げながら洞窟の中を入り口に向かう。

そして、通る道みち全ての泉の水を取り込み、洞窟の中を洗い流すかの様に勢い良く、日の照りつける暑い地上に一気に流れ出し、洞窟の入り口の周辺をまるで川のような光景へと変貌させた…。

 

「うわーぉ」

シアンは外の状況は知らないものの、目の前の出来事に思わず声を漏らし、魔獣を見上げた。

『信用した訳ではないが、礼はしよう。付いてくると良い』

「え、あっ、待って!」

シャトはシアン達に魔獣の言葉を伝える。

三人は辺りの荷物をまとめると、一足先に水の殆ど無くなった泉の底に降りていたオーリスと並び、先をゆく魔獣に従って洞窟の奥へと向かって行った。