ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 15

打ち出された火球を風で防ぐのは難しいと判断したのか、弓遣いはそれを避けようと飛び退く。

そして足が地面についた瞬間、左足の甲をシアンの放った矢が射抜いた。

呻きを漏らし、思わずよろめく弓遣いの右の太腿に次の矢が刺さる。

右の肩を狙った次の矢は、風に阻まれ逸れていく。

弓遣いは無数の風の刃を放つが、シアンは周囲に炎の壁を立ち上げる事で風の流れを変えてみせ、そのまま炎を使い弓遣いを壁際へと追い込んでいく。

「わかった、もう抵抗はしない。やめてくれ…」

シアンはふんと鼻を鳴らし、弓を下ろすが、内心魔力の残りが少ない事が露見しなかった事に安堵していた。

 

その背後ではカティーナが聞き慣れない言葉を口にしながら、何やら文様の刻まれた剣身を、しなやかな指先でなぞっていた。

特別何かが起きたようには見えないが、カティーナはそのまま剣を構え、相手の出方を伺う。

相手の一人は剣を、一人は槍を構え、じりじりと間合いを詰めてくるが、大きな動きは見せない。

シアンの吹いた口笛をきっかけに、槍の男が足を踏み鳴らした。

地面からカティーナを目がけて、いくつもの尖った岩が勢い良くはえてくる。

ティーナはそれを大きく避け、距離を取ると、剣を地面に突き立てた。

何が起こるかと身構える男達、だが、あたりに変化は見られない。

嘲るように口角をあげ、カティーナに向かって踏み出そうとして、男達は異変に気づいた。

足元が凍りついている。

男達の周囲には冷気が漂い、いつの間にか足首まで分厚い氷で覆われていた。

「ずいぶん迂闊ですね…」

剣を構えたカティーナに、剣の男が火球を打ち出す。

しかしカティーナは周囲にはえた岩を盾代わりに距離を詰めていく。

槍の男が足元の岩に変化を起こそうと槍の柄を地面に突き立てるが、凍り付いた岩の反応は鈍い。

それでも徐々に変化を見せる岩に氷は歪み、砕け散る。

目の前に迫ったカティーナを槍で叩き伏せようとする男、しかしカティーナは身を屈め、はじめからそれだけを狙っていたかのように、金属製の胴鎧に一撃を加えすり抜けた。

剣の男が背後にまわったカティーナと直接剣を交えようと斬りかかる。

男の一撃は重く、カティーナは受けるだけで精一杯の様子だったが、剣を撃ち合わせる度、男の表情が歪んでいく。

それでもカティーナを壁際へと追い詰めた男、しかし、そこまでだった。

何があったのか剣を手放し、男は自分の手を見つめ苦悶の表情を浮かべている。

その向こうでは槍を手放した男が凍えた様にぶるぶると震えながら、胴鎧を外そうとしていた。

 

「みんな無事かー?」

あたりが落ち着くとシアンがそう声をかけたが、矢を受けた男につぐ怪我をしているのは他ならぬ本人だった。

シャトはオーリスを抱きしめている。

ティーナは剣を納めると、手をあげてシアンの声に応えた。

「さて、どうするか…」

そう言って、シアンは自分の出血がほとんどない事を確認すると、しゃがみ込んで、軽い調子で弓遣いを問いただし始めた。