ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 14

正面の三人の男のうち二人は剣を、一人は弓矢を構えている。

オーリスは真っ直ぐ男達に向かって勢いよく駆けていく。

リーダー格の男が左手を掲げ何かを呟くと、辺りに薄っすらともやがかかり、そのもやが凝集するかの様に空中に何本もの鋭く尖った氷塊が現れる。

それは男が手を前に振り下ろすと同時に、全てオーリスへと狙いを定め一度に撃ち出された。

その行動が歯向かうものに容赦する気はないとはっきり物語っている。

オーリスの周りには風が集まり、向かって来た氷塊をひとつ残らず弾き飛ばしていく。

もう一人の剣を構えた男が弓遣いの男に目配せをし、オーリスの正面に立ち、前に出る、剣の周囲にはオーリスと同じく風を纏っている。

剣を突き出すと纏った風が真っ直ぐにオーリスに向かって伸び、そして死角となった男の背後からはその風の中を貫く様に火矢が走る。

オーリスの目の前で、男の放った風は炎を巻き込み視界を遮る。

その遮られた視界の向こうから、次々に氷塊と風の刃、そして火矢が襲う。

オーリスの毛が束になって宙に舞い、駆ける勢いに揺れる長く垂れた耳の端を氷塊がかすめ血が滲む。

しかし、オーリスは怯む事無く、その炎ごと全てを飲み込むほどの渦を作り出し、反対に男達の視界を奪おうとする。

「ちっ!」

リーダー格の男が舌打ちをしながら横に避け、改めて氷塊を打ち出そうとした時、首筋に冷たい物が触れた。

反射的に身体がこわばる。

「動けば刺します。毒が塗ってありますから、小さな傷でも動けません」

いつの間に背後にまわったのか、シャトが刃を寝せた状態の短剣を首筋に押し当て、そう告げた。

しかし男は首筋の周辺に氷塊を形成することでシャトの持つ短剣から逃れ、振り向きざまにシャトの足元から剣を振り上げる。

しかしその場にシャトの姿は無く、肩の辺りにチクリと痛みが走ったかと思うと意識を失い、その場に崩れ落ちた。

 

オーリスはもう一人の剣を弾き飛ばし、風とともに身体ごとぶつかっていく、その勢いで壁に叩きつけられた男は衝撃に息が詰まる。

その男の呼吸が回復した頃、シャトが撒いた眠り薬を風が運び、男はその場に倒れ込む。

目の前の出来事に完全に戦意を失った弓遣いは自ら投降する気配を見せるが、眠り薬を避けることは出来ず、ゆっくりと意識を失っていった。

 

泉の側ではシアンが風を纏って飛んでくる矢をどうにか短剣で弾きながら、接近されるのを避ける為の盾代わりに、自らの周囲にいくつもの火球を出現させる。

一定の距離を保とうとするシアンを、剣を構えた男は地面に手を付く事で地形の変化を起こし、足元から襲う。

しかし、シアンは地面に手を付いた男を格好の的として、変化の起こる不安定な足元を気にしながらもその頭上に液体の入った小瓶をを投げ出すと、短剣を手放す代わりに弓を取り、矢じりに火をつけ小瓶を狙い矢を放つ。

その間にも風を纏った矢がシアンを次々に襲う。

そのうちの数本がまるで鎌鼬のようにシアンの服を切り裂き肌に傷をつける。

シアンはわずかに顔を歪めるが、体勢を立て直すと弓遣いにも火矢を放った。

弓遣いは周囲に風で壁を作っているのか、シアンの矢は途中で吹き飛ばされて届かない。

一方で割れた小瓶の中の液体は炎を上げて男に降り注ぎ、男は慌てて泉に飛び込んだ。

すると最初に水に囚われた男と同じ様に水に飲み込まれ、そして宙に浮かぶ。

シアンは姿の見えない魔獣の手際の良さに口笛を吹いてみせる。

男は水の中で身体の無事を確認しているが、よく見ると男の髪にも服にも肌にも焼かれた様な跡はない。

シアンはにやっと笑って、次の矢を弓遣いに向かって放つ。

だがやはり矢は吹き飛ばされて届かない。

「面倒臭い」

シアンは眉を寄せ、そう言うと、何を思ったか矢をつがえた弓を構えたまま、周囲の火球を一点に集めると一つの大きな火球へ変化させ、弓遣いめがけて打ち出した。