ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 8

剣同士が強くぶつかり、シャトは勢いに負けて後退するが、すぐに体勢を立て直し、隠していた小瓶を、できる限り遠くに向かって放り投げる。

そして宙に舞う小瓶目がけて短剣を放った。

かしゃん。 と軽い音で小瓶が割れ、中に入っていた粉が辺りに広がり、降り注ぐ。

ヴィートからはずいぶん後方…シャトが狙ったのはヴィートでは無い。

シーナ、いや、トリネは降り注ぐ粉の下、途切れそうな意識の中、ヴィートの背中を見つめていた。

「…守って、くれ、た…やく、そく…」

意識が完全に途切れ、膝から崩れ落ちるトリネ。

「トリネッ!」

名を呼び、駆け寄ろうとするヴィートにシャトは声を上げる。

「駄目ですっ!」

ヴィートはその声に振り返ろうとするが、脚元がぐらつき、思わず膝をつく。

「オーリス!!!!」

シャトが呼ぶと、洞窟の中を強い風が吹き抜けてゆく。

シャトはリュックを手にするとヴィートに駆け寄り、小さな丸薬を数粒差し出した。

「ごめんなさい、あの、毒じゃないですから…えっと…」

シャトの様子に、ヴィートは顔を出来るだけ上向けるように口を開く。

シャトは驚いたが、手早くその口に薬を入れる。

「飲み込まないで、口の中で溶かしてください…苦いでしょうけど、効きますから」

ヴィートはシャトの『傷つけるのは嫌いだ』とゆう言葉と、自分に注がれた視線を思い出していた。

「あな、たは、…ず…ける、き…かった、の…で…ね」

尋ねようとするが、うまく口が回らない。

シャトは困った顔をしている。

その時、背後から「は…?」と女の声が聞こえた…。

 

気が付くと二人の姿はすでになく、ヴィートは大きく息を吐く。

 心配そうにその姿を見つめていたシャトは、リュックから何枚もローブを引っ張り出す。

「ごめんなさい、少しやりすぎました…これ、どうぞ」

と、一枚をヴィートに着せかけ、トリネの元に向かう。

一枚を地面に敷き、自分よりも大柄なトリネを、抱えるようにして優しくその上に寝かせ直し、もう一枚を肩口を覆うようにかけ、隙間の出来ないないように直している。

「なぜ、たす…るのです、か?」

先程よりは聞き取りやすくなったヴィートの質問に、シャトは首を傾げる。

「貴方は、たぶん、悪い人では、ない…でしょう…? …この人が傷つける…傷つくのを怖がっているみたい…。…それに、今、貴方まで倒れてしまったら危ないです…。ここは祈りの場ですし、何も無いとはおもいますが…」

シャトは立ち上がり、『ずいぶん荒らしてしまいました』と呟くと、自分の針や短剣、瓶の欠片、ナイフを集めてまわる。

そしてナイフをまとめてヴィートのそばに置き、リュックから改めて小瓶を取り出す。

「これ、さっきのと同じ薬です。目を覚ましても、身体が動かしにくい様なら2、3個、さっきみたいに…」

ヴィートは頷き、

「この先、祭壇、まで、い…ほん道、です」

と教える。

シャトは少し戸惑った様だったが、

「祭壇の周りの様子、教えてくれますか?」

と問いかける。

「特に、何も、祭壇…あるだけ、です。その奥、は、深い、縦穴」

「そうですか、ありがとうございます。…あの、私本当にあれしか魔石なくて、置いていったほうがいいですか?」

ヴィートは首を横に振る。

「荷物…入…てます」

シャトはヴィートの代わりに荷物から魔石を取り出し、明かりを灯す。

「私、行きますね」

そう言って頭を下げ、アブトスとオーリスの方へ歩いていく。

「大丈夫?」

と覗き込むシャトに、ギー、と一声上げるとアブトスは飛び上がり、鳴きながらシャトの頭の上をくるくると飛ぶ、そしてフラフラしながらも祭壇の方へと自力で飛んでいった。

「あ…」

その後ろ姿を見送って、シャトはオーリスに笑いかける。

「行こうか」

ヴィートは不思議な娘だ、と思いながら、少し休むべきかと目を閉じ、遠ざかっていく足音だけを聞いていた。