ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 14

朝食の後、用意を済ませたカティーナとシアンは外に出て、シャトを待っている。

最低限の装備として剣と短剣を身に着けているだけで、二人とも大きな荷物は持っていない。

「お待たせしました」

クラーナが用意してくれた軽食の入った袋を肩から下げ、三本の水筒を持ったシャトが小走りに外に出てくると、オーリスがそれを見計らったかの様に姿を見せた。

シャトは二人にそれぞれ水筒を手渡し、オーリスを撫でる。

シアンは水筒を腰に下げながらその様子を眺め、尋ねる。

「オーリスも一緒に行くの?」

「えぇ。大体いつもオーリスも一緒なんです」

「嫌がらないんだ?」

シャトはなんのことを言われているのかが分からずきょとんとしている。

「あー、害はなくても力が強い訳でしょ? …"ナガコさん"て。オーリス怖がったりとか、嫌がったりとかしないのかな、と思って…」

シアンは続けるが、シャトの表情は変わらない。

そのままの顔でまばたきを繰り返し、そのうちにゆっくりと首を傾げた。

「そういえば、嫌がった事無かったですね…最初は私が頼んでたんですが、いつの間にか当たり前に…」

オーリスは話が分かっているのかいないのか、シャトにぐりぐりと頭を押し付けている。

「いつの間にかって事は、もう長いんだ? 二人で行くようになって」

「えぇ、とゆうか初めからずっと一緒なんです。もう、十年以上前から…」

その答えを口にした時シャトの表情が曇った事に、シアンもカティーナも気付いていたが、その事には触れない。

オーリスが急かすようにシャトのワンピースを引っ張り、それをきっかけに三人は歩き始めた。

森に入ると枝葉に遮られて空はあまり見えなくなる。

あまり人の手は入っていないようだが、シャトは慣れているのか悩むことなく進んでいく。

シアンとカティーナの様子を見ながら歩みを調整しているらしく、二人が遅れる事はない。

しばらく行くと岩が増え、木々が疎らになった。

ちらほらと白い雲が浮かぶ青空を見上げたシアンは何を思ったのか、振り向むいて立ち止まると、一番後を歩くオーリスをじっと見つめる。

「どうしたんですか?」

ティーナの問いかけに『気になってたんだけど』と前置きをし、シアンはシャトに尋ねた。

「オーリスって、何?」

「何? え、何がですか?」

シアンの聞き方が悪いのだろうが、シャトはまったく何を聞かれているのか分からずに困っている。

「種類、種族? 大きさはともかく、見た目は兎っぽいけど、魔獣だよね?」

「あ、あぁ。そうですね、風の魔力を使います。種はわからないのですが…」

「この辺に多いとかじゃないの?」

「私もオーリス以外の子は見たことがありません。オーリスはここよりずっと寒いところに居たとは言うのですが、それ以上のことは」

オーリスの体の毛は雪のように真っ白で、ふわっとしている。

寒いところに棲んでいたと聞いて違和感はない。

「そうなのかぁ」

シアンはオーリスのそばに寄り、そう言いながらわしゃわしゃと撫でる。

「でも、どうしてですか?」

「え? いや、聞いてなかったなと思って…? 闘ってるのも空を跳ぶのもみたけど、オーリス以外に見たことなかったし、何なのかなと思ってたんだ。雲見てたら思い出したから」

シアンは『あんな感じだったろ』と流れていく雲を指差している。

「それだけなら、わざわざ立ち止まらなくてもいいのでは? もっと何かあったのかと…」

ティーナの言葉に『悪かったよ』と答え、シアンはまた歩き出す。

唐突な質問も、気を張ることなく過ごしているからこそだろう。

シアンはこの状況を少なからず楽しんでいた。

 

目の前には高い崖が続いている。

崖沿いに歩いていくと、今度はシャトが立ち止まり、『ここ、登れますか?』と二人に尋ねる。

あたりの崖よりは多少緩いが、ごつごつとした岩肌のなかなかの急斜面に二人は若干答えを躊躇っているようだった。