ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 15

「ここを登ると近いのですが、先まで行けばもう少し登りやすい場所もあるんです。カティーナさんローブですし、気になる様なら先まで…」

シャト本人はワンピースを着ていて、膝から下は無防備だ。

ティーナより余程崖登りに適さない格好だが、『私も久しぶりなので…』と別の事を気にしていた。

「ローブ脱げば大丈夫だろ?」

「そうゆうシアンさんは?」

「どうにかなるだろ、崖上りなんかしばらくしてないけどな…」

シアンは体をほぐし、カティーナはローブを脱ぐ。

ゆったりとした丈も袖も長いシャツに足首を絞った長いズボンを身に着けているカティーナをシアンは上から下まで見て眉をしかめる。

「本人は暑くないんだろうが、よくそんなに着込んでいられるな」

ティーナはなんでもない、とゆう顔をシアンに向けたあとで崖を見上げた。

「どっちが先に上がれるか競うか?」

「勝てる気がしないので遠慮します」

二人の様子をシャトは不思議そうに眺めていたが、用意が済んだらしいとみると一足先に崖を登り始める。

手を使う事なく、岩から岩へ跳び移る様に崖を上がって行くシャトの姿に二人は驚いた。

崖の下からシャトを見上げるオーリスが風でシャトを押し上げているようだった。

「おぉ。さすが…!」

「器用なものですね…もう上まで」

シャトは崖の上に着くとスカートの裾を払って、下に居るシアン達にぺこりと頭を下げる。

その姿にシアンが意味ありげな顔で笑い、カティーナを見る。

「なんですか?」

「知らないだろう? 炎の魔力使える奴は筋力やなんかを一時的に向上させられるんだぞ」

それだけ言うと、シアンは右手で左の肩を払う様な仕草を三度繰り返し、勢い良く崖を登り始める。

シャトとはまた違った動きだが、見た目以上の身軽さですぐにシャトの隣に並び、ひらひらとカティーナに手を振ってみせる。

「あまり得意ではないのですが…」

ティーナは呟き、崖に手をかける。

得意ではないと言った割には足場に迷うこともなく、器用に登るが、崖の中程で一度上を見上げて立ち止まった。

疲れたわけではない、だが登ったことで改めて苦手を意識したらしかった。

ティーナはふっと息を吐き、改めて岩に足をかけるが、その背後に近付いたオーリスが、ヴヴヴ、と自分が居ることを知らせるように鳴く。

「カティーナさん、オーリスが背中にどうぞって」

ティーナは一度振り向きオーリスを見つめ、それからシャトに向かって言う。

「構わないんですか?」

「オーリスが良いって言ってますから。ただ、しっかり掴まっていてください」

オーリスはカティーナのそばの崖に足をつくと、乗りやすいように体勢を整える。

「ありがとう。失礼します」

ティーナが背に移ると、オーリスは空を蹴り一度高くまで跳び上がった。

そのまま空中を駆け回ったかと思うと、急に高度を下げ、音も無く崖の上におりる。

「大丈夫でしたか?」

駆け寄ったシャトの問いかけにカティーナは頷き、笑顔で応える。

シャトは安心した顔をするが、オーリスを軽くたしなめた。

「いえ、本当に大丈夫ですから、むしろお礼を言わせてください」

オーリスの背から降りると、カティーナは正面にまわり、

「ありがとう、久しぶりに空を飛びました」

と、何かを懐かしむような、どこか少し悲しみの混じったような笑顔でオーリスを抱きしめる。

シャト以外にそんな事をされたのは初めてらしく、オーリスはどうしたらいいのか分からないのか、身体は微動だにしないが鼻先だけを落ち着きなく動かしていた。

シアンは珍しいものを見たとゆう顔をし、シャトはオーリスの様子に笑顔を見せている。

 

崖を登った事で目的地にずいぶんと近づいた。

シャトはそこからさらに上の崖を指差し、目的地はその辺りにある洞窟で、ここからはなだらかな岩場をずっと上がって行く事になると告げる。

ティーナはローブを着なおし、シアンは水筒の水を半分程一気に喉に流し込んで大きく息を吐く。

まだ落ち着かないオーリスはシャトの近くを行ったり来たりしながら、何かを訴えているらしかった。