ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 8

戸口の外でオーリスと並び、あたりを眺める三人。

「見て回るといっても、あるのは森くらいですけれど…」

「なんか…シャトのお気に入りの場所とか、この辺にしか無いものとか、あとはなんだろ…この辺一帯を見渡せるような場所とか?」

のんびりとそう言ったシアンに、カティーナが尋ねる。

「まず野営の準備をしてしまった方がいいのではありませんか?」

「あ、そっか。シャト、幕張っていい場所ある? 紐で吊るす簡易の幕なんだけど…」

 

幕とゆうのは、天幕…テントに近い物で旅人の荷物の半分は大抵これが占めている。

ただの布一枚、とゆう場合もあれば、使いやすいように縫製された撥水性の高い物、糸状に加工した鉱石を織り込んだ物など、質も価格も色々な為、買おうとすると少し悩むだろう。

鉱石を織り込んだ物は魔布と呼ばれ、魔力に応じて温度変化を起こすことができる最高級品だが、幕内で魔石を使う事で似た様な効果を得ることができる為、幕の素材としては一般的ではない。

シアン達が持っているのも、雨風をしのぐ為の簡易の幕としては中程度の品質で、大きさも手頃な扱いやすい品のようだった。

 

「部屋なら空いていますから、わざわざ幕を張らなくても大丈夫ですよ?」

不思議そうな顔をするシャト。

「いや、大して知りもしないのに、突然来た奴泊めるの嫌だろ…? 無用心だしな」

「…? なら、日暮れ前に村までお送りします。この辺りを見て回るとゆう事なら、また朝、迎えに行きますから…ね、オーリス?」

オーリスはシャトの言葉に胸を張る。

任せなさいと言っているようだった。

「最初から宿に泊まる気は無いんだ。だからそんなに気にしなくていいよ」

「…訪ねてくださった方が外で寝るって、気になりませんか…?」

躊躇いながらも、シャトはそう口にする。

シャト自身も経験はあるし、野営自体は旅人なら珍しい事ではないが、家のすぐそばで、となると話は別だ。

「大した物はありませんけれど、多分母は食事も寝具も用意するつもりでいると思いますし…」

シャトとのやり取りに最終的にはシアンが折れ、何日この辺りにいるかは分からないけれど、少なくとも今夜一晩はシャトの家に泊まる、とゆうことに決まった。

 

「日暮れまでそうないですけれど、あそこに見える崖の上まで上がってみますか? ここから近くて、辺りを見渡すなら、たぶんあそこが一番だと思います」

シャトはそう遠くない崖の先を指さしていた。

 

崖の一番上まで登ると、360度辺りを見渡せる。

西には山並みが迫り、足元には森とシャトの家、畑と草原を東に向かうとまた広い森が広がっている。

この辺りは開けているが、少し離れれば険しい山が連なり、その向こうを見ることはかなわない。

「壮観だな」

「シャトさんの家につくまでにずいぶん登ってきたような気がしますが、まだまだ向こうの山のほうが高いのですね…」

思い思いにあたりを眺める二人に、シャトが教える。

「ここからだと距離はありますが、西も北も山並みの向こうは海です」

シアンはぼんやりと大陸の地図を思い浮かべた。

「大陸の北西側…? 大きな湾があったっけ? だとしたら、すぐにイクイオアメイだし…ここから北には何もないの?」

 

イクイオアメイ、古い言葉で"雪の山"とゆう意味の、大陸の北側の一帯を占める山々の総称だ。

険しい山が連なり、雪と氷に閉ざされた不毛の地と言われるその場所には、一部の魔獣を除けば棲む者も居ない。

 

シアンの言葉にシャトは首を横に振る。

「山を越えた先に大きな街があります」

シアンは北の山を眺めながら、その向こうにあるとゆう街がどんなものかと、考えを巡らせていた。