ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 16

シャトの言った通りのなだらかな岩場を登り、一行は洞窟に辿り着いた。

洞窟の入り口からは細い川が流れ出ている。

様子を伺うように立ち止まったシアンとカティーナに気付いていないのか、シャトとオーリスは足取りそのままに洞窟へと入っていく。

洞窟内に灯りはないが、魔石を用意することもない。

シアンが声をかけようとすると、川から光が溢れ、シャトの周囲が青白い光に照らし出された。

「な"?」

シアンの漏らした声にならない声に振り向いたシャトは、立ち止まったままの二人に首を傾げている。

「どうかしましたか?」

シャト達にとってはその状態が当たり前のことらしい。

「いや、なんでも…」

と言って、シアンは恐る恐る足を進めるが、カティーナは立ち止まったまま動かない。

今度はシアンがカティーナに向かって『どうした?』と投げかけるが、カティーナは応えない。

じっと立ったまま無意識に息を止めていたらしく、しばらくしてくはっと変な音で息を吐くと、大きく吸い込んでゆっくりと吐いていく。

「神格者、でしたか…? どうゆうものなのか、今理解しました」

この世界では魔力を感知する"人"は珍しいが、カティーナはそうゆう能力を持っている。

そのこと自体はシアンも知っているけれど、こんな様子を見るのは初めてだった。

ティーナは川から溢れ出た光から、この世界でこれまでに感じたものとは一線を画す魔力を感じている。

「大丈夫ですか?」

シャトの問いかけに微かに頷くが、立ち止まったまま動かない。

その様子を見たオーリスが、シャトに何かを伝える。

「あの、オーリスが、力は大きいけど怖くないから大丈夫だ、って言ってます。でも嫌な感じがするなら無理しない方がいい、とも…」

「ありがとうございます…大丈夫です」

ティーナは深呼吸を何度か繰り返し、歩き出す。

 「力…には、驚きましたが、ここはとても澄んでいるんですね」

 

青白く照らされた壁面はごつごつとした岩肌そのものであるし、足元もけして整ってはいないただの洞窟だが、水にも空気にも淀みのようなものは一切ない。

あたりを満たすのは凛とした気配。

ある種、聖域と言っても過言ではないだろう。

 

「そういえばそんな感じ…森の中とも違うか…。空気が冷たいからってだけじゃ無いよな…?」

ティーナとシアンの感覚は、この場に慣れたシャトには分からない。

「…大丈夫ですか? えっと、進んでも」

シャトがおずおずと尋ねると、カティーナは頷き、シアンは『あぁ』と答え歩き出す。

「ここも広いの?」

「私が入った事があるのはそう遠くない場所ばかりですが、ナガコさんは普段もっと奥に居るようですから、たぶん広いんじゃないでしょうか」

 

ところどころ崩れたような大きな岩と広い泉、洞窟の中はどこもそう違わないらしい。

違いをあげるとするならば、日の光の届かない場所であるにも関わらず青々とした葉をいっぱいに広げた蔦が、泉周辺の壁一面に這い回っていることだろうか。

いきいきと伸びたそれは光を受けてきらめいている。

「来たな…」

美しいが低く重い、身体に深く響くような声が聞こえ、一行はその声のする方に顔を向けた。