魔神の棲む山 3
カティーナのため息の後で、シャトは魔神について話し始める。
「あくまで人が存在を区別するために使っている呼び名ですが、人の力では及ばない者、あるいは人でありながら何かを成した者の事を"神格者"もしくは単に"神"と呼んでいます。古い言葉を使うなら、イマ、とも。魔力そのものや、精霊が神として扱われることもありますね…。その神格者の中で、悪意や狂気の強い者、何かしら害を与える者を"魔神"と…。魔獣も似たような使われ方をしていますが、魔力を扱える、人以外のものすべてを魔獣と呼ぶことが一般的でしょうか…人にとって崇める理由があれば神獣と呼ばれる事もあります、でも…あ、えっと、…そんなところです」
主観が混じりそうになった事に気づき、シャトは口を噤む。
それを気にすることもなく、カティーナは何かを考えながら言う。
「この辺りに棲んでいる魔神は、どちらかと言えば神と呼ばれる存在、とゆうことでしょうか…?」
「そうですね、どちらにしても喜ばないでしょうけれど…」
シャトは西の山を見上げ、続けて言う。
「きっと、人の勝手な呼び名なんて知らない、と言われます」
「そんなもんだろ、亜人とか獣人とか、そうゆうのも人が呼んでるだけだ。人と同じ言葉を話すとか、人との関わりが多いって種族ならそのまま名乗ったりするけど…」
シアンはどこか不機嫌そうにシャトの言葉に続き、少し間を開け、改めて口を開く。
「呼び名と種族はどうでも、たちが悪いのは大抵一部だけだし、人だってその中に入る奴は少なからずいるよ」
シャトは少し驚いた顔をし、躊躇いながら、
「…ずいぶん、はっきりと…」
と、言ったが、あとに続ける言葉を選ぶことが出来なかったのか、そのままシアンを見つめている。
「あ、そうだ、オーリスは? あの子シャトのパートナーなんでしょ、一緒じゃないの?」
話を変えようとしたのか、それともその事に急に気付いたのか、シアンはあたりを見回し、変な声を上げる。
三人の真後ろにオーリスの姿があった。
「ごめんなさい、しばらく前から居たんですが、驚かしたかったみたいで…」
オーリスはもっと何かをしたかったのか、つまらなそうにシャトに身体を寄せ、鼻を鳴らす。
「いや、ごめん、本当に気付いてなかったから、普通に振り向いちゃった。…ん? あれ、カティーナお前、気付いてなかったの?」
「いえ、気付いていましたよ? もうご挨拶は済んでいます」
それが何か、といった風に答えるカティーナ。
「なんだよ、私だけ仲間はずれかよ、オーリス、君にもお土産があるんだぞ!」
シアンは肩から下げていた荷物をがさごそさぐり、両方の手に一つずつファタナを持って差し出した。
ファタナの収穫はまだ始まったばかりで、まだまだ季節的に値段が高い。
「イクトゥ・カクナスで買ったんだけど、こうゆうものなら食べられるかと思って…」
「あ、えぇ。オーリス、好きですよ、ファタナ」
シャトの視線が何かを隠そうとしたのか泳ぎ、その事に気付いたカティーナは遠慮無く尋ねる。
「本当に好きですか?」
「え…えぇ、好きなのは本当です、けど、たぶんそれ、私達が収穫した物です…」
シャトは誤魔化しても仕方がないかと思いながらも、答える声が小さくなった。
オーリスは嬉しそうにシアンにすり寄り、鼻先を顎の辺りにぐいぐい押し付けている。
一方でシアンは薬草に続いて、いわゆる"はずれ"を選んだ事に『そんなんばっかだな!!』と自分で呆れていた。