ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 13

何かを考えている風のシアンをしばらく眺め、カティーナは口を開く。

「同行するとゆう事なら特に問題があるとは思いませんが? シアンさんは気に入っているようですし」

「そうゆうふうに見えるか?」

「違いますか?」

シアンは『違わないけど』とこめかみ辺りを掻きながら、首をひねる。

気に入っている、と言われればそうなのだろうが、シアン自身、その理由に思い当たらないようだった。

他人に気を遣い、控えめで、生き物に優しい、一般的には好ましいと思う相手だろうと感じてはいるが、どことなく世間からずれたような、とらえどころのなさはどちらかと言えば苦手な部類のような気もしなくはない。

ただ、洞窟をどうにかしようと思ったのはシャトと関わったからであるし、わざわざそのことを伝えようとここまでやってきたのもまた事実だ。

「気に入ってるのかねぇ…?」

「誘うつもりなのですか?」

「あ? いや、それは思ってない、かな…たぶん」

シアンは断言はせず、腕を組み、再び首をひねった。

 

もやはまだまだ深く濃い。

見通すことのできないもやの奥、そこにあるはずの森、かすかに鳥の声が聞こえてくる。

 

「おはようございます」

いつの間に戻ったのか、家の中からシャトが柔らかな声とともに現れる。

「あ、おはよう。収穫、終わったの?」

シアンの声は本人の登場に動揺したのか若干うわずっているが、シャトがそれに気づく様子はない。

問いかけに頷き、口を開きかけたところで別の声が聞こえ、キリオがもやの中から姿を見せる。

「おはようございます」

「あぁ、おはよう」

ティーナとシャトは、すでに挨拶をしたあとらしくシアンだけが応える。

「シャトねーさん、この前の薬草大丈夫みたいだから様子見に来るようにって、昨日ナガコさんに言われてたの、忘れてた」

「わかった、ありがとう。後で行ってくる」

キリオは二人に遠慮したのかそれだけを伝えると、すぐに家の中に入って行く。

キッチンでは朝食の準備が始まったようだった。

「魔、神…ナガコさん? の所に行くの?」

シアンは言い始めてから、呼び方に悩んだのか、変な間と疑問符が混じる。

「はい。でも、よく訪ねていますし、今日じゃなくても大丈夫ですから」

「あ、いや、そうじゃなくて…私等ついて行ってもいい…?」

シャトとキリオの話から、魔神と親しいのだろうと感じたシアンは、魔神と呼ばれる者を直に見る機会などなかなかないだろうと、そう尋ねたらしかった。

ティーナはシアンの考えに自分も含まれている事に気付き、何のつもりかと不思議そうな顔をシアンに向け、シャトは首を傾げる。

「えっと…」

シャトは視線を中に漂わせ何かを考えているようだったが、ひとりで頷き、おずおずと答えた。

「えっと、歓迎されなくても構わなけれ、ば…? お二人だからとゆうことではなくて、あまり人と会うのが好きじゃないみたいなので…」

「…え、それ平気、なの?」

「会ってみたいんですよね? 追い返されたりはしないはずですから」

とシャトは笑顔を見せ、西の山の方を指差した。

「山の上の方なので、歩くとニ時間とゆうところでしょうか。オーリスに任せればすぐですけれど、どうしますか?」

シアンはカティーナの顔を伺う。

「どちらでも構いませんよ」

ティーナは一人で残っても仕方がないか、と、シアンに付き合うことにしてそう答えた。

「折角なら歩きたいけど、いい?」

シアンの言葉にシャトは頷き、『いつにしますか?』と二人に尋ねながら、まだもやに隠れて見ることの出来ない西の山を見上げていた。