ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

北の街へ 7

シアンが戻って来るのを待って、シャトはリュックの口を大きく開き、『おいで』と声をかけた。

するとリュックがもぞもぞ動き、中から白い塊がシャトの胸の辺りを目掛けて飛び出して来る。

ビロードのような質感の、真っ白い大きな大福のようなものがシャトの腕におさまった。

「キーナといいます。オーリスと同じく、私のパートナーです」

シャトの声に大きな大福が動く…表面がざわついたかと思うときらきらと光る明るい緑色の目が二つ現れ、シアンとカティーナを見つめている。

どうやら生き物のようだった。

「ごめんなさい、覗き込まれるとびっくりするらしくて…あんなことを」

キーナと呼ばれたそれはまた目を閉じ、もぞもぞと動く。

二人の視線を避け、シャトの方を向いたらしかった。

「言われる前に覗いた私も悪かったんだろうし、これくらいの傷気にしなくていいけど、その子は何、なんてゆう生き物?」

「呼び名はいろいろですけれど、オルカフとか、ウレイク、あとはアマト…それぞれ特徴をそのまま名前代わりに使っていたみたいですね」

オルカフは袋、ウレイクは消える、アマトは玉を意味する言葉なのだとシャトは言う。

「リュックの中にその子がいたんだとしたら、他の物は何処に入ってたの?」

より疑問が大きくなったのか、シアンはリュックの中を覗き込むが、あまり見ない形に仕切られている以外に特に変わったところはないようだった。

上から覗くことが出来るリュック本体は、ちょうどキーナが納まる高さに底があり、下にも空間はあるはずだが上からでは使えない。

リュックを手に取ったシアンはその作りを珍しそうに眺めている。

「下側は背中の方に口があるんだ…これってその子の為の形? ほんとに何処からあれだけの荷物を…」

と何も入っていないリュックの中にシアンが手を入れると、キーナがまたもぞもぞと動き目を開けた。

そしてそれまで殆ど見えていなかった口を大きく開けると石に枝に鍋、何かの瓶や底のぬけた籠、ナイフに剣、枕と統一感なく次から次に吐き出していく。

壁に刺さったナイフなような勢いはないが、明らかにシアンに向かって飛ばしている。

「キーナだめ。シアンさんリュック取ったりしないから」

シャトの言葉にキーナは口を閉じたが、すでに辺りには物が散乱している。

何処から荷物を取り出していたのかは説明がなくてももう判断がつく。

「珍しい生き物を連れてるんだな…」

キーナの中がどうなっているのかはシャトにも解らないとゆう事だが、口に入る大きさの物ならばいくらでも入るらしい。

シアンもカティーナもキーナに興味を持ちまじまじと見つめている。

しかしキーナはまたシャトの方を向いてしまい、恥ずかしいのか怖がっているのか、時々毛をざわつかせるだけで他には何もしない。

「キーナ、吐き出したものはちゃんとしまってね」

シャトがそう言って地面に下ろすと、キーナは細く目を開け様子を窺い、近くに落ちていた籠を吸い込む。

シアンは目を大きくしているが、キーナを刺激しないように気を使っているのか、声をかけることはない。

そのまま片付けはキーナに任せ、三人は朝食を食べ出発の用意を整える。

その内にオーリスが戻り、キーナはまたリュックの中だ。

 

一晩寝て疲れがとれたからか、昨夜よりも一行は足早に進んでいる。

これなら思っていたよりも短い時間で洞窟を抜けることが出来るだろう。

 

しばらくして、シャトが何かに気付いたように耳を澄ます。

風鳴りにまじって何かが聞こえているらしかった。