ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

祈りの洞窟 13

魔獣の居なくなった空間に、どことなく気まずい空気が流れている。

そんななかで最初に口を開いたのはカティーナだった。

「人が来る、とゆうのは、どうゆうことなのでしょうか」

シャトは静かに首を横に振る。

シアンは、なんにせよ今考えても仕方がないか、と軽い調子でシャトになげかけた。

「角のやつに何か言われたんだろうけど、今はとりあえず、そっち行っていい?」

オーリスがシャトに答えを促すようにすり寄ると、シャトは一度静かに深呼吸をして顔を上げ、頷く。

二人はすぐそばまでは寄らず、少しだけ距離をとって立ち止まった。

「何が来るか知らないけど、私達は"悪い奴"になるつもりは無いから、それだけは信じていいよ」

二人を見つめ、シャトはまた静かに顔を伏せた。

シアンはオーリスに笑いかける。

オーリスはシャトのそばを離れはしないが、二人を警戒する様子はない。

「あんまり嬉しくないけど、いざとなったらやるしかないだろうな」

シアンは言い、この広さなら使えるか、と弓と矢の感触を確かめていた。

 

忍んでいるような足音が聞こえる。

一人や二人ではなく、数が多い。

 

明かりが近づき、その空間に8人の男がぞろぞろと姿を見せた。

それぞれが剣、弓矢、槍などの武器を手にしている。

その集団を眺めて、シアンが口を開く。

「後ろの二人、あんたら、店で会ったな?」

男たちが答えることはなく、集団の中央、リーダー格と思われる男が『探せ』と言ったのを合図に、右手側に3人、左手側に2人と別れ、それぞれが壁沿いを探るようにしながら進んでくる。

「何探してんだか知らないけど、もう少し愛想ってものがあるんじゃないの?」

シアンは呆れたように言って、男たちの様子を眺めている。

シャトとオーリス、カティーナもそれぞれ男たちから目を離すことなく、様子を伺う。

泉の際まで壁沿いを探ってきた男たちは、リーダー格の男に向かって首を横に振り、何も無かったことを知らせている。

「お前たち何か見たか?」

男の一人がシアンに向かって声をかける。

「さぁ、何かって言われても、ここにあるのは岩と水とそこに沈んでる石くらいなもんでしょう」

「さっき妙な音が響いていただろう?」

「あぁ、その音なら私達も気になって…だから見に来たけど、特に何もなかったよ」

シアンはこともなげに言ってのける。

その一方で、泉の様子を見ていた男は、『向こう岸に…』と、泉に一歩足を踏み入れた。

瞬間的に泉の水が盛り上がり、男を飲み込み空中に浮かび上がる。

「出たかっ!!」

リーダー格の男の声が響き、男たちは手にした武器を構え、臨戦態勢を取る。

「あー、知ってるんだな、やっぱり」

シアンは男達には聞こえない様にそう言う。

ティーナが訝しげにシアンを見た。

「あいつ等、ここに魔獣が出るって知ってて私等に仕事をふったんだよ。おびき出したかったんだか、戦わせたかったんだかは判んないけど」

シアンはシャトに顔を向け、静かに笑う。

「とりあえず、あいつらは魔獣をどうこうしたいみたいだけど?」

「…私は守るためなら…」

シャトは真っ直ぐに男達を見ている。

守る為なら闘うことも厭わない、言外の意思がはっきりと伝わってくる。

「んー…カティーナ、またしばらく貧乏旅だな」

「…しかたありません」

そう言いながらも、シアンもカティーナも、仕事が不意になる事を残念に思っている風はない。

正面には三人、左右に二人ずつ、さてどうしたものか、とシアンが考えている内に、シャトとオーリスは正面に向かって走り出す。

「ひとりで行っちゃったよ…しょうがない、まぁやってみるか…カティーナ、お前そっちな!」

「ええ、行きましょう」

男たちは泉を警戒しながらも、それぞれの相手に向き直り、武器を構え直した。