ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

魔神の棲む山 6

言葉の続きを待つように視線が集まったが、クラーナはシャトにカップを渡すと、『ゆっくりしていってね』と言い残し、戸外へと姿を消した。

その後ろ姿を見送り、三人はそれぞれカップを口に運ぶ。

「なんてゆうか、きれいな人だな」

少し間をおいて シアンは続ける。

「仕草もそうだけど、雰囲気が」

褒め言葉なのだろうとは感じても、シャトはどう反応したらいいのか判らず、カップを口元に寄せたまま動かない。

「あー、いや、いいんだ。思った事言っただけだから、気にしないで…。あー、今日、会いに来た理由とか、今話していいかな…?」

シャトはこくんと頷き、カップを下ろす。

こうゆう部分が実際の年よりも幼い印象の一端なのだろうか、とシアンは考えたが、年よりしっかりしていそうだ、とゆう感想を持っていた事とその考えは相反するものの様に思えてくる。

 

確かにシャトは実際の年よりは少しばかり幼く見えるのだ。

背が低い訳でも、極端に童顔な訳でもないが、シアンが15くらいか、と思っていたように、身体付きからするとそのくらいの年の少女と変わらないだろう。

すらっと伸びた手足は子供のそれではないが、細身で、胸や腰回りの肉付きは薄い。

 

シアンはそんなことを考えながら、荷物から手紙を取り出す。

「これ、渡してくれって…あの時の追い剥ぎの男の方から。イクトゥ・カクナスには一度来てみようと思ってたから、ついでに預かってきた」

シャトは差し出された手紙を受け取るが、顔には疑問の色が浮かんでいた。

「洞窟から東にしばらく行った所に大きな街があるんだけど、あれから少ししてそこで偶然会ったんだ。とりあえず、読んでみて」

シャトは几帳面にたたまれた紙を広げる。

「これ、このあたりの文字じゃないですね…」

「あぁ、南の方で使われてる文字だな」

困ったように手紙を見つめているシャトに、シアンが尋ねた。

「もしかして読めない?」

「はい…えっと、シアンさん、読めますか?」

「うん、シャトがいいなら…貸して」

シャトが差し出した手紙を受け取ると、シアンはひと通り目を通してから、声にしていく。

 

突然このような形でお手紙を差し上げること、お許しください。

洞窟で危ない目に合わせてしまった事、刃を向けた事、傷つけてしまった事、申し訳ありませんでした。

このような言葉で許されることとは思っていませんが、貴方にはお伝えしなければと、これを書いています。

貴方が、ずっとこんな事はいけないと思い続けていた私に、きっかけをくれました。

謝らなければと思うのと同時に、感謝しています。

 

こんな事を言える立場では無いことも解っています。ですが、どうか、トリネのことは許してあげてほしいのです。

すべて私がいけなかったのです。

できる限りの償いをしていくつもりです。

 

私はしばらくここイムジェンで罪の償いを兼ね、働くことになっています。

何か私に出来るようなことが有りましたら、遠慮なく連絡を下さい。

お借りしたローブと薬を、いつかお返しできる日が来ることを願って。

 

 

「大体、そんな感じ。丁寧な文章だよ」

シアンはそう言うと手紙をシャトに返し、自分の知っている範囲の事を話し始めた。