祈りの洞窟 2
身構えたオーリスの前に岩陰から何者かが飛び出し、落ちてきた岩の軌道を剣を沿わせることでそらせ、そのままの勢いで投げ飛ばす。
衝撃で破片が飛び散ると同時に、あたりは砂煙に包まれた。
オーリスはシャトの側を離れない。
「大丈夫、ごめんね」
シャトの声に鼻を鳴らして応え、砂煙の向こうの何者かを警戒している。
「ヴィーートォーーー!?」
崖のなか程から女の声が聞こえた。
砂煙が薄れ、大剣を手にした男の姿が現れる。
「だいじょう…っ!! やだ、人がいたの!?」
そう言うと、女は岩肌を器用に跳び跳び降りてきた。
「貴女、大丈夫!?」
シャトに駆け寄ろうとする女の前にオーリスが立ちはだかる。
「…!」
「オーリス、いいの、大丈夫だから」
一歩後ずさった女はオーリスの陰から覗くシャトの姿に素早く目を走らせた。
「ごめんなさい、えっと、怪我はない?」
「大丈夫です、そちらの方のおかげで怪我はしていません」
男は微かな笑顔をみせ、『無事でよかった』と本心から言った。
そんな男に一瞬だけ女の視線が刺さる。
が、すぐに女は安心したように息を吐いてみせ、申し訳なさそうに話し出す。
「怪我がなくて本当に良かった、あれ…あの岩、私のせいなの…躓いた拍子にぶつかってしまって…本当にごめんなさい」
女は深々と頭を下げた。
「いえ、私もこの子も怪我はありませんし、もう、いいですから」
女はオーリスを見つめ、
「ずいぶん大きいのね、大型種はときどき見かけるけど、ここまで大きな子は始めて…」
と、撫でる気にでもなったのか手を伸ばす。
オーリスは触れられる前に跳び退り、はっきりと威嚇する。
「オーリス」
優しくたしなめるようなシャトの声にしぶしぶといった雰囲気でオーリスは威嚇をやめ、男の方に近寄って鼻をヒクヒクさせ始めた。
「怖がりなんです」
シャトは言い、『ごめんなさい』と頭を下げる。
「いいの、こっちこそ急に手を出したから…ごめんなさい」
女は笑顔を見せ、続ける。
「私はシーナ、あっちはヴィート。…えっと、道に迷った? あなたみたいな子がこんな所にいるの珍しい、と、思うんだけど」
「えっ…あ、いえ、ここに…用があって」
とシャトが洞窟を指さしながら答えると、シーナと名乗った女は大げさに驚いて見せる。
「まさかひとりで!? ここ、魔獣が出るのよ?」
『危ないわ』とシーナは呟く。
そして暫く考えてから、
「私達と一緒に行きましょう!」
と一歩前に出てシャトの顔を覗き込む。
シャトは特別顔をそむける事も身を引くこともせず、困ったように言う。
「いえ、そんな、悪いです」
「いいのよ、気にしないで、私達はこのあたりをよく知っているし…岩で驚かせちゃったお詫びだと思って? ね?」
「でも…」
「ね、きまりっ! よろしくね」
シーナはシャトの手を取るとぎゅっと握って、さらに笑ってみせた。
押し切られたようなかたちになったシャトを、オーリスが不思議そうに見つめている。
その横でヴィートは剣を納めながら、何故か、険しい表情を見せていた。