祈りの洞窟 1
赤い岩山が連なっている。
日差しを受けて白く光るように見える崖の一角で、艷やかな褐色の肌の女がひとり、肩にかかる程の金色の髪を風になびかせながら、少し離れた崖下を眺めている。
ピッタリとした丈の短いタンクトップにショートパンツとゆういでたちで、豊かな胸とパンと張った太もも…しなやかな身体をしている。
いくら夏とはいえ、惜しげも無く肌を晒すその格好はこの辺りでは珍しい。
ふっ、と息を漏らし、女の口角が上がる。
視線の先には大きな白兎を連れた少女の姿があった。
「女の子がひとりじゃ危ないなぁ…。…ヴィート」
女が声をかけると少し離れた岩陰から長身の男が現れた。
がっしりとした骨格に均整のとれた筋肉をまとっているが、痩けたように見える頬と、乾いた褐色の肌がどことなく陰を感じさせる。
質素な布の服の上に、あまり上等とは言えない簡素な革鎧、背に負った手入れの行き届いた大剣だけが妙な存在感を放っている。
「行くよ?」
女は気乗りしない様子の男を促し、岩肌にぽっかりと口をひらいた洞窟の入り口の方へと向かっていった。
シャトは岩山に挟まれた道を歩きながら何かを探すように辺りを見回す、オーリスも隣を歩きながら、時々立ち止まっては物見をするかの様に立ち上がり、きょろきょろしている。
「この辺りのはずなんだけど…」
シャトは足を止め、手に持った小さな包から市で買ったあの青い石を取り出した。
「何かわかる?」
オーリスに言葉を投げかけたが、オーリスは、少し先の崖の一角に視線を送りじっとしている。
「行ってみようか」
独り言のようにシャトは呟き、オーリスの首筋を撫でた。
オーリスは小さく鼻を鳴らし、再び歩き始めたシャトの後からついていく。
少し進むと、それまでは他の岩に隠れて見えなかった洞窟の入り口が姿を現す。
シャトとオーリスは洞窟のすぐ前で立ち止まり、ひろがる闇の中を覗き込んだ。
微かに、ひんやりとした空気が漏れている。
リュックを身体の前に抱え直し、何かを取り出そうとするシャトにオーリスが軽く身体をぶつける。
「え?」
ぱらぱらと、小さな石や砂が頭上から降ってきた。
重い物がぶつかるような、鈍い音が空気を震わせる。
音のする方を見上げたシャトの視線の先に、巨大な岩が迫っていた。
オーリスはシャトのワンピースを銜えてその場から引き離そうとするが、シャトは何故かそれを静止して、かけていた眼鏡を少し下にずらし、何かに目を凝らす。
その間にも岩は迫り、降ってくる砂や小石が増えていく。
オーリスが静止を無視して、前足で抱え込むようにしてシャトをその場から引き離す、しかし頭上で跳ねた大岩はまるで狙いすましたかのようにそちらへと向かってくる。
その時、周囲に風が集まり始め、オーリスは毛を逆立てる。
「駄目」
小さく、短く、それでいてはっきりと。
シャトの言葉に、何事も無かったかのように風は散る。
シャトを庇うようにオーリスは前に進み出て、迫る岩に対して身構えた。