ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

獣人の街 6

「はぁー美味かった。ごちそうさまでした」

シアンは食べ終わると砂浜に放り出してあった魔石を手に取り、魔力を込めていく。

「ほどほどでいいからね。この街じゃ魚より魔力の方が貴重だって言ったろ、魚一匹で頑張られたら困っちまう」

ヒニャは魚や網を片付けながらシアンの様子を見て言った。

「この街では魚は豊富なのかもしれないけど、ここしばらく新鮮な魚なんか口に入らなかったから魔石一個分くらいなんでもないよ。まぁ、お釣りがくるってゆうなら、かわりにこの街のこと聞かせてくれると嬉しいけどね」

シアンの言葉に辺りのイマクーティ達は顔を見合わせて笑い声を上げ、

「いいよ! なんでも聞きな、こんだけいりゃ誰かしら答えられるだろ」

と、シアンの尋ねることにかわるがわる答えてくれた。

「魔術師が一人いるって話だったけど、イマクーティは魔力使えないのか?」

「…あんたそんな聞き方したら相手が悪けりゃ食われるよ? まぁ、魔力が使えないのはもうずいぶん昔かららしいし、そのこと自体は誰も気にしちゃいないがね。それでも今街に住んでる魔術師が偉そうにするもんだから、ちょくちょくいざこざが起きるのさ」

「精霊と話せる奴がいるみたいだけど、それはその魔術師のことか?」

「あ? 違う違う、そこにも居るだろ、タドリほらしゃんとしな! その子みたいに毛色が違う奴は魔力こそ使えないが、そうゆうことが出来るんだよ」

タドリは周りの視線を一身に受けて身を縮めるが、大きい身体に青みがかった毛色はそれでも十分に目立っている。

「毛色が違うって珍しいの?」

「今は四人か? 住んでる数からしたら珍しいだろうね」

シアンはそのやりとりで気になったのか、

「ガーダに注意はされたんだけど…」

と前置きをして、少し間を置いてから尋ねる。

人狼って呼ばれるのはあんまり好きじゃないって聞いたけど、数え方は人でいいのか?」

シアンが尋ねたのは興味からで他意がないことは、イマクーティ達も今までのやり取りから分かっているのか、呆れたり笑ったり、特別悪い雰囲気にはならなかったが、

「聞き方が悪けりゃ食われるって言ったろ?」

とヒニャも呆れたような顔をシアンにむけている。

しかし気を悪くした様子はなく、『そうだねぇ…』とどう答えたものかと考えながら、

「あんたイマクーティってなんて意味だか知ってるか?」

とシアンに質問を投げた。

シアンは『いや』と首を横に振って、ヒニャが続けて話すのを待つ。

「人はもう古い言葉をあまり使わないってのは本当なんだね。イマクーは狼、オティは人間の事、人狼と大した違いはないのさ。それでも人間に人狼って呼ばれるのはなんでか嫌だってゆう奴が多いんだ」

「あとはそうだねぇ、古い言葉では人間だろうがイマクーティだろうが、アイヒッキ オ オノン…"一つの者"って数える。だからなのか数え方にはこだわらないね、何の事だかがわかりゃそれでいい」

「人間が私等のこと頭や匹で数えたら喧嘩にもなるだろうけど、自分達では女や男じゃなくて雄、雌って言ったりするし、考えてみると割といい加減だねぇ」

その場にいたイマクーティ達はまた笑い声をあげたが、輪の外からシアンにかけられた声にざわつく。

「魚なんか食って、腰に下げてるそれは飾りか?」

いつからいたのかわからないが、シアンの矢筒に目を留めたらしい数人の雄が近付いてくる。

そして、改めてシアンを挑発しようとゆうのか、一人がしゃがみ顔を覗き込むと、

「こんなに小さいんだ、弓なんか使えないよなぁ?」

と言って不快感を抱かせるような笑みを浮かべた。

「あんたら止めな! 魔術師とのいざこざだけでうんざりしてるんだ、関係ない子にちょっかい出すなんて馬鹿なまねはよしとくれ」

ヒニャが止めに入ったが、シアンは挑発に乗る気はないらしく目の前の雄には何も言わずそばに置いていた荷物を掴み、自分の前に出たヒニャの服をひょいひょいと引っ張った。

「おねーさん、魚ごちそうさま。私等そろそろ行くわ。ありがとう」

魚と、自分を庇おうとしてくれたことの両方に対するお礼のつもりでそう言うと、シアンはタドリの手を掴んで輪から出て行こうとするが、シアンを挑発した奴とはまた別の雄が道をふさいで声をかけて来る。

「なんだ、やっぱり飾りなの?」

「あんたらには関係ないだろ?」

「別に喧嘩したい訳じゃないんだ。弓に自信があるなら、少し俺達と遊んでよ?」

 シアンは目の前の相手を一瞬睨んだが、すぐに視線を外し、どうしたものかとヒニャや周りにいたイマクーティ達の方へと振り向いた。

「やめときな」

ヒニャはそう言うとシアンの手を引き雄から遠ざけるが、シアンは拒めば余計に絡まれるだろうと考え、『大丈夫だから』とその手をそっと外した。

そして雄の方に向き直ると、

「何するつもりだか知らないけど、周りを巻き込まないならやってやる」

と大きく一歩踏み出す。

周りで囃し立てる雄達を止めることも出来ず、タドリはシアンの横でおろおろしている。

そして雄達の先導で集団は森へと場所を移して行った。