ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 39

『だぁっははははは!!』と周囲を震わせ笑い、強く腿を叩いたトレローはシャトに"顔を寄せろ"と手で招き、髪を掻き回す様にわしわしと撫でる。

「あの餓鬼が傭兵団の頭領か! 人間はまだまだ餓鬼だと思った明日にはよぼよぼになると思ってはいたが、そうか! そんなに経ったか!!」

 

エマナクに来る途中で立ち寄った傭兵団の頭領、グドラマ。

シャトがその名を口にすると、それをきっかけにそばによって来ていた者だけでなく、シャトに厳しい視線を向けていた者の中にも懐かしむような表情を浮かべる者が出た。

「お前さんはグドラマの娘か?」

「いえ、お世話にはなっていますが私と頭領に血のつながりはありません。ですが、お子さんはもちろん私と同じ年頃のお孫さんも」

「孫だぁ!? なぁ、あれが離れてから何年経った?」

「お前んとこの二人目が生まれた頃じゃなかったか?」

「うちの二人目? 子供の歳なんて忘れちまったよ」

トレローが投げかけた質問は水面に波紋が広がるように次々と小鬼から小鬼へと伝わり、最終的に四、五十年前だろう、とゆうところに落ち着いたが、小鬼の四、五十年は人にとっての十年と少し、とゆうところらしくシャトはグドラマから聞いていた話との感覚のずれを感じていた。

「そう長く居たとは思わねぇが、初めて見た時にはまだまだ子供だったがあいつが、俺らのとこを離れる頃にはいっちょ前に共にする相手まで見つけていたもんなぁ…」

 

一部の若い小鬼とナティーフ、そしてシャトを置き去りに昔話に花を咲かせる面々、その話をアロースもしばらくは聞いていたようだったが、そのうちにシャトの薬草に目を落とし、指先で唇をちょこちょこ弾きながら『これからいかしらねぇ…』と簡単に値を付けてくれた。

「そんなにしますか…?」

「どうかしらねぇ? まぁ、お互いに大きな損はないんじゃないかしら、ねぇ、どおぉ?」

「え、あの、たぶん大丈夫だと思います…」

アロースに振られてどぎまぎと答えたナティーフは小鬼達の間を縫って荷車から小さな袋をとって来ると、一枚、二枚…とつかみ取った硬貨をシャトの前に並べていく。

「…あの…大鬼の方々って、えっと、どんな…暮らし方を…?」

小さな声でぽそぽその尋ねたナティーフに向けられたシャトの目には疑問が浮かんでいるが、硬貨を数える為に顔を俯けたままのナティーフはそれには気がつかず、『僕よりずっと大きいんですよね?』と続ける。

「身体は、大きいです。とても優しくて、毒も薬も、植物の事なら多くを知っていらっしゃいますし、精霊とも仲がよくて森の恵みを大切に暮らしている様です…」

「いつか行ってみたいなぁ…」

ティーフはそう呟いた後で、『確認してください』と顔を上げ、シャトとトレローは聞こえてきた呟きに、それぞれ、より不思議そうな顔、と、苦々しい顔を見せた。