ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 35

チルダとトゥエリに見送られ広場へと戻った二人、数人の酔っ払いを除き、広場に広がっていた料理や椅子、木箱はあらかた片付いていて、小鬼と重鎧は片付けの邪魔にならないように場所を移したのか舞台のそばに立っている。

そちらへと近づきながら広場を見回したシアンは、火球を投げ出してぶっ倒れた酔っ払いの姿がないことに気付き、はて、と首を傾げた。

「そっちの小さい嬢ちゃんはどうかしたのか?」

「…小さい…」

自分より小柄な小鬼に言われてその顔を見下ろしたシアンだったが、"シャトと比べて"とゆう事か、と納得することにして一度重鎧を見上げた後で小鬼に向かって口を開く。

「さっきこの人と騒ぎを起こした酔っ払いの姿が無くなってたからどうしたかと思って」

「さっきは居たのか?」

「…んー、んん? まぁ、さっきのお客達が寄ってたかって袋叩きにするような事は無いだろうし、もう一方の当事者はここに居るし、あっても身ぐるみ剥がされてその辺に転がされるくらいだろうけど。仲間が居るなら探すくらいはするだろうし…」

聞いてはみたがあまり興味も無いのか、小鬼は一同を促して歩き出し、広場から北の通りへと進んでいく。

段々と家屋の綻びが見えるようになる街並み、賑わいからも遠ざかる小鬼の向かう先に段々とシアンの顔は曇り、『なぁ、ちょっと…!』と一旦歩みを止めさせようと声をかける。

「この先宿なんか無いよな?」

「古い馴染みの店の空き部屋を借りてんだ。目利きは確かで面白いもん売ってっからな、この街に来たときには買い物ついでに寄ることにしてんだ。…表から入るなら次の路地を曲がるんだが…」

「…裏から入るなら三本先からぐるっと回り込む…」

「…。…何だ、嬢ちゃんアロースの事知ってんのか?」

苦々しい顔で嫌々頷いたシアンはシャトに顔を向け、

「…シャト、私先に戻るわ。これ以上近付いたら何されるか判んないし、そうじゃなくてもあそこは苦手なんだ…。一人でも大丈夫だとは思うけど、何かさっき変な奴も居たしオーリスが私の代わりに来れるように店の場所は教えておくから」

とゆっくりと話してはいるのだが、誰かが割って入る余地無く言い切り、小鬼と重鎧を順に見る。

「シャトがあの人に何かされそうになったら助けてあげてください」

「よく知りもしねぇ俺等んとこにこの嬢ちゃん一人残して帰んのか?」

「あなた方が何かする気ならここまで来ないうちにどうにかなってると思うし、全然まともじゃない人だけど"目利き"は信用してますから」

「…お前あれか、気に入ったのがどうこうって言われてた奴か」

余計に顔を強張らせ身震いをしたシアンは、ふるふると顔を横に振った後で『ほんとやめてほしい…』と呟き、改めて小鬼達にシャトの事を頼むと首筋をさするようにして頭を下げ、よろよろと来た道を戻っていった。