ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 38

「…全部ある…」

並べられた物を見下ろしてナティーフは、固い表情のままそう呟いた。

シャトは何も言わず、小鬼達も興味深そうに四方から覗き込んでは居るものの口を開くことはなく、奇妙な沈黙の中、一本の枝に手を伸ばしたナティーフは『これ、もう少しありませんか』と尋ねたが、それとはまた別に、物言いたげに見える目が落ち着きなくふらふらと動いている。

「それと同じ量位なら…」

シャトもナティーフのその様子に気がついてはいるのだろうが、特に触れることもなく、リュックの中から細い蔦で纏められた小さな枝の束を取り出すと、直接ナティーフに向かって差し出した。

「あ…ありがとう、ございます。えっと…この辺のいくつかは割と手に入るものなのでもう用意があるんですが、それ以外は全部買ってしまっても大丈夫ですか?」

「構いません。…もし量が足りないものがあるなら…そうですね、二日…いえ、丸一日あればもう少し用意することも出来ますけれど…」

「いえ、大丈夫です…! …買いたくてもなかなか見つからない物まで全部揃ってますし、これだけあればしばらく持ちますから」

「ナティーフ、どっちにしても北には行くけどな、折角だ、頼んじまえ。見たところ妙なもんは混ざっちゃいねぇし質も良い、手本にして覚えるにも確かだ。いくら覚えが悪いっつってもそろそろ俺らの手ぇ煩わせんのはやめにしろ」

「前に一人で行かせた時は、質が悪ぃだけならまだしも全然違うもん買ってきたもんなぁ…」

呆れたような顔の小鬼達に小突かれるナティーフをよそに、広場で声をかけてきた小鬼はシャトの正面から、

「嬢ちゃん、とりあえず今ある分まとめていくらだ?」

と尋ねながら、おかしな値をつけてくれるな、とゆう目で見据える。

他に使う予定が在る訳ではなく、森に入る度に必要が無いにもかかわらず癖のように集めた物とゆうこともあり、広場で口にした『ただでも構わない』とゆう言葉はシャトの本心で、しかしそれが小鬼には受け入れられず、この辺りでの相場を知らないシャトは困ったような顔でその目を見つめ返していたが、肩にそっと触れられて後ろを振り返った。

「トレロー、あまりいじめないであげて?」

シャトをいたわるようなアロースに『いじめちゃいねぇよ』と顔をしかめた小鬼だったが、シャトがさっきまでとは違い、目を丸くしてじっと見つめているのに気がつくと『何だ…?』と居心地悪そうに鼻の上にぎゅっとしわを寄せる。

「トレローさん、ですか…?」

「だったらなんだってんだ?」

「"七ツ穴"のトレロー…?」

「あ”ん?」

驚いた様に声を出したトレローは、訝しげな顔で改めてシャトの顔をまじまじと見、『何で知ってんだ?』と返した後で、嫌な顔をしてアロースを見上げたがアロースは『私じゃあないわよ?』とそばの木箱に腰を下ろした。