ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 44

「どんな…? 言ったでしょう、"造られた人形のようなもの"と。貴方には魔術式の失敗で余計な負担もかけたから出来る限り明確な答えを返したいところだけれど、それ以上何を答えたらいいのかしら…?」

「…人形、とゆうのは命を持たない物ではないのですか…? 私にはこの世界の魔術の事はよく解りません、ですが、貴方の中には間違いなく何か、生きた者の気配があります…」

少し驚いたような表情のあとで、アロースは一度目を閉じ、ベットの柱に寄りかかるようにして床に視線を落としているシャトを意識しているのか少し抑えたような声を出す。

「…それはそうでしょうね…。譲り受けた生き物の核に肉付けされているのだもの…」

それまで話にはいる様子を見せなかったシャトが、言葉の途中で顔をあげ、自分に視線を向けたのが判ると、アロースはそちらに向かって『本当は私も知らないことなのだけれど…』と言いながら服の胸元を緩め、あらわになった肌に強く爪を立てて皮膚や肉に当たる物を縦に割く。

血が溢れることのない赤い肉をうっすらと纏った骨のその奥、人ならば心臓がおさまっているだろう場所には淡く明滅を繰り返す焦げ茶色の塊が見え、シャトとカティーナは静かにアロースの次の言葉を待っていた。

「昔の…私が造られるよりも前の、ある魔術師の話をしましょうか…」

割いた肉を閉じ、胸元を整えたアロースは立ち上がり、壁にかけられた飾り布の方へと向かう。

 

開かれた窓からはシャトの髪を揺らすように風が吹き、アロースの動きを目で追っていたシャトの唇が微かに、何かを話すかのように動いたが、声として空気を揺らすことはない。

 

飾りのように見えていた布が、アロースの手によって開かれると、奥には別の部屋があり、五脚の椅子と、柔らかそうな布で身を包みその椅子に身体を預けた四つの姿…一番右端は大きさこそ人の子供程だがその姿は未成熟な胎児のようで、一つ隣は一面が皮膚に覆われ僅かに凹凸が判るだけの顔と肩や腰のない緩い曲線を描く身体、残りはアロースと雰囲気の似た男と女が一人ずつ…すべてに共通するのは見える肌のすべてが乾いた土のような色と質感をしていること、一目見ただけで、少なくとも今現在は"生きて"はいないだろう事が窺える。

一番左の空いた椅子に腰を下ろしたアロースは隣にある姿と同じように俯いて目を閉じ、しばらくそのまま何かを考えるようにしていたが、おもむろに顔をあげると、静かに口を開いた。