ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 43

「何かワタシの顔についている?」

いたずらっぽく口角をあげたアロースは二人を等分に見て言うと、台に張られた糸のような物の内の一本をぴんと弾き、カティーナの短くなった髪を見上げ『貴方はどこから来たのか判らないヒトね』と言いながらまた外に目をやる。

どうやら台に張られているのはアロースが切ったカティーナの髪の一部のようで、外を眺めたままの格好でその髪の上にかざされた手が、何かを確かめるかのようにゆっくりと何度もその上を行き来していた。

「窓を開けてもあまり変わらないのかしら…?」

何が、とゆうことを省いたその言葉にカティーナが答えられずにいると、『シアンも苦手らしくてね』と言いながら、ふふふ、と笑い、

「働いてくれていた時もねぇ、外を回るような仕事ばかりを選んでここにはあまり居なかったのよ? 荷物の整理なんかを頼むとあからさまに嫌な顔をするの。そうゆうところも可愛かったのにねぇ…」

とため息をつく。

「シアンさんはこちらで働いてらしたんですか?」

「あの子、何も言ってないのねぇ…。以前しばらくこの街に居たことがあるのよ? 他の店で何か売り物を壊したらしくてねぇ、その店から働き手として買わないかって持ち掛けられて…ワタシのところは雇ってもすぐに居なくなる子が多いからちょうどいいかしら、って。少し雑なところはあるけれど、頼んだ仕事自体はしっかりこなすのよ。…最初は雇い主だと思って遠慮もしていたようだけれど、あの子、すぐ顔に出るし、割と思ったことをそのまま口にするでしょう? ワタシを相手にそうゆう子って珍しいかしら…って、少し突っついていたらそのうちに遠慮も何も無くなってねぇ…♪ 少しやり過ぎたのか、そのうちにあんな感じになってしまったけれど、それでも面白い子だと思うの。仕事の粗を探して、働く期間を長引かせようかと思ったくらい…」

潤んだ目を細めたアロースは『また働いてくれたら…ねぇ?』とシャトを見上げた。

反応の薄いシャトにアロースは再びベッドに座るよう促し、その隣のカティーナには"それで、何しに来たの?"と尋ねるような視線を向ける。

 

薄い雲越しの月明かりが開け放たれた窓から射しているのだが、部屋の中は明るく、アロース自身も光を帯びたように見える為に、その月明かりはカティーナやシャトの目には殆ど映ってはいない。

 

ティーナはアロースの視線に考え込むように一度俯いた後で、ベットに腰掛けたシャトに視線を投げ、ただただ明るく、物のない部屋の中を見回し、そして、 

「貴方は、一体…どうゆう存在なのでしょうか…」

と、言葉を選ぶようにゆっくりとそう口にした。