ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 21

エマナクのほぼ中央の広場、大きな塔を背にした木製の舞台を囲むように置かれたいくつもの長椅子はちらほらと空きが見えるものの、通り掛かりに足を止めたらしい者達もいて、今は誰の姿も見えない舞台の周囲は割と賑わっている。

まだまだ高い日を浴びて、舞台に据えられた鐘がきらりと光り、乾いた風が吹き抜ける。

 

何処からとも無く大きな鐘の音が辺りに響いた。

 

「はあっ!!」

半ばやけくそといった雰囲気の掛け声がかかると、両の手にそれぞれ短剣を持ったシアンが舞台の袖から駆けだし、勢いよく床を蹴って身体を捻り、二度、三度と宙を舞う。

そのままの勢いで舞台の端に据えられた鐘を短剣の柄で大きく一度打ち鳴らすと、今度はシアンとは反対の袖から腰に長剣を結わえたシャトが駆けだし、風に背を押されているかのように軽やかに高く跳び、その身を翻した流れで長剣を抜くと、着地するやいなやその柄でシアンとは反対の端に据えられた鐘を打ち鳴らす。

その音に合わせて舞台の最奥から銀髪をなびかせたマチルダがレイピアを片手に飛び出し、長い手足を綺麗に伸ばして転回をして見せる。

チルダが中央に着くと同時に駆け出したシアンとシャト、そしてマチルダがそれぞれ武器を構えてぶつかると同時に響き渡る金属音、それとともに三人の中央から吹き上がった大きな火柱に、それまでそれほど聞こえてこなかった歓声が一気に大きくなり、それは三人が入れ代わり立ち代わり武器を打ち合わせては軽やかに、まるで踊るように飛び退く度に吹き上がる炎に合わせて何度も繰り返され、段々と長椅子の周りの人垣が厚くなっていく。

何度目かの打ち合いで三人が揃って剣を合わせると、再び大きな鐘の音が響き渡り、舞台の半分を覆う屋根の上に姿を現して観た女性が客の視線を集めるように白い花びらを撒き散らす。

花びらは目元を仮面で隠したその女性の周囲でひらひらと舞い、観客の視線は徐々にそちらへと集まる。

すると女性は意味ありげに微笑み、風に煽られるスカートを軽くつまむように持ち上げて観客に向かって挨拶をするかのように身体を低くしたかと思うと、三人の揃う舞台の中央目掛けてふわりと軽く屋根を蹴った。

いつの間にか舞台上の三人は一歩退くように下がっていて、舞台に突き刺されたシャトの長剣の柄に音もなく降り立った女性は再び軽く膝を曲げるようにして挨拶をし、観客を見回すようにした後で口を開く。

「私、進行を務めさせていただきますネムと申します。お集まりの皆様にはこれよりしばし、私共とこの舞台に、お付き合いいただければと存じます。皆様にご披露するにあたり磨き上げて参りました"わざ"の数々、どうぞ最後までお楽しみください」

揃ってお辞儀をした四人、ネムと名乗ったのはどうやらアーキヴァンのようだったが、普段の何処かおどおどとした様子もなく、よく通る声は誰の耳にも心地よく響く。

シアンとシャトが的の用意に下がると、アーキヴァンは差し出されたマチルダの手をとって舞台の上にふわりと降り立ち、突き刺さった剣の柄を掴むとさして力も入れずに引き抜いた。

隣のマチルダだけはアーキヴァン本人がそのことに驚いて目をまるくしたのに気付いたが、戸惑うアーキヴァンの手を引いて観客にそのことが伝わる前に揃って再びお辞儀をする。

「始めは弓使いユーリによります的当てでございます」

二人が左右に分かれて舞台の袖に下がる頃には、的なのだろうか、釘の突き出た板が舞台の上に据えられていて、ユーリと呼ばれたシアンは手に弓を持ち腰に矢筒を下げた格好で、二人と入れ代わるように舞台の上へと戻ってきた。

シアンがわざとらしく大きな動作でお辞儀をして見せると、それを見計らってアーキヴァンが姿を見せ『まずはあちら』と的のある側を手で示す。

そこには人の頭ほどの大きさの氷を手にしたマチルダが居て、それを高く掲げ観客に見せると、板に突き出た釘と釘の間に載せるようにして氷を固定する。

大きく弓を引いたシアンが放った矢は氷を砕き、『段々と的が小さくなります』とアーキヴァンが言うのに合わせて今度は大きさの違う三つの氷が釘の上に縦に並べられる。

シアンは流れるような動きで三本の矢を放ち、そのどれもが的の氷を砕いたが、シアンは観客に見えない位置で何故か苦い顔をしていた。