ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 28

「シアンさん、マチルダさん」

大きな荷物を抱えてこちらへとやってくるのは水鏡で出会った少年で、声に振り返ったシアンはひらひらと手を振る。

「トゥエリ、今行こうと思ってたんだけど…」

「全部持ってきました」

「頼んどいてこんなん言うのはなんだけど、出来たんだ?」

「はい。センセから、お聞きした通りに作ったつもりですが一応確認してください、と。魔力は込めてありますからそのままどうぞ」

「これに関しては後でちゃんと払うから」

「いえ、こちらでお支払いすると言った分にも届きませんし、石と綿はシャトさんからの頂き物ですから、お気になさらないでください」

「シャトは屑石だって言ってたけど、そうなの?」

「そうですね、この大きさでは使う方はあまりいないでしょうから」

『ならいいんだけど…』と言った後でシアンはトゥエリの顔をまじまじと見ながら口を曲げ、少し考えてから口を開く。

「今更だけどさ、ヒワナだっけ? 何の関係も無いんだろ? 何でわざわざ面倒かぶってんの?」

トゥエリは困った顔をしたが、荷物をシアンに渡し言葉を選ぶようにゆっくりと話す。

「えっと、関係は、ないですけれど、それで言うなら僕も…。センセ、は、忘れたくないんです、きっと…」

へへっ、と笑ったトゥエリは『何言ってるのかわからなくなっちゃいました』とわざと軽い調子で言って、シャトとアーキヴァンの居る建物の扉を開けると中に向かって『何かお手伝いすることはありますか?』と声をかけた。

 

日が落ち、闇の濃くなった空の下、各所にある魔石の明かりとは別に、広場の舞台、そして観客達を囲むように焚かれた篝火。

昼の舞台では街に住んでいるのだろう子供の顔も客席のあちこちに見えていたが、今客席に見えるのはすでに酒を一、二杯あおったのだろう赤ら顔を初めとして昼の演目そのままでは歓声のかの字も起こらないと思われる面々で、舞台の裏から覗き見ていたマチルダとシアンは、顔を見合わせ二人揃って肩をすくめたかと思うと何をする気なのかにっと笑ってそれぞれの立ち位置へと戻っていく。

 

鐘が強く打ち鳴らされ、観客の話し声が低くなる。

舞台の周りを風が包んだかと思うと篝火の明かりが指の先ほどの種を残してふっと落ち、舞台の中央から眩しい光球が打ち上がった。

それが爆ぜたかと思うと、高い空から長い尾を引いた光る鳥が大きな羽を広げ姿を現す。

その鳥の姿は舞台と観客の頭上で羽ばたきながらゆっくりと円を描いたかと思うと尾の端からほろほろと形が崩れはじめ、いつしか形を失って無数の淡い光の点になった。

その光の点は緩やかに明滅を繰り返し、次第に空は闇に帰る…。

観客の多くは惚けた様にその光を見上げたままの姿勢で黙し、舞台の周囲は沈んだようになっているが、篝火の炎が吹き上がるのと同時にそれまでどうゆう訳か聞こえていなかった街の賑わいが戻り、再び打ち鳴らされた鐘を合図にシャト、マチルダ、シアンの三人が舞台の中央へと向かい三者三様宙を舞って出た。