ある魔術師の記憶 12
「え、あ、いや、素敵…? ですけど…。何で…契約してたら出来ることが限られるはず…」
「契約してるなんて言った?」
「だってその姿であの人について動いているんじゃ…」
「別に契約してなくたってそれくらいしても構わないでしょう? まぁ、契約はしてなくてもこれの中にいると動かさなきゃいけない分、魔力は制限されているようなものだけれど…」
「何でそんなこと」
「…ふふふ、内緒…」
風で集めた資料を拾いあげた精霊に促されて他の資料をまとめて差し出すと、『ありがとう』とゆう言葉が返ってきた。
「あの子も言っていたけれど、遊びに来るといいわ。この部屋は淀んでいるもの」
「…淀…っ。…はい…」
「じゃあね」
部屋を出ていく精霊を見送ろうとしていたはずの僕は、気がつくと精霊の服を掴んでいた。
「どうかした?」
「…。…僕、も、行ってもいいですか…」
「今? 一緒に?」
頷く僕に少し困ったような顔をした精霊は『私はお店までずっと歩くわよ?』とこちらの目を覗き込む。
あの魔術師の店は二つ先の街にあり、歩くとかなり時間がかかるのだけれど、精霊は人形の中に入っているとはいえ疲れも知らず、きっと歩みも早いだろう、と思いながらも再び頷く僕に精霊は
「…いいわ。あの子以外と話す機会もあまりないから嬉しい。ゆっくり行きましょ、遅くなったって構わないから」
と本当に嬉しいと思っているのか判断は出来なかったが、それでも、いいといってくれた。
数日過ごすことが出来る最低限の荷物をまとめ、訝しがる家族を強引に納得させた。
精霊は僕以外の前では話すことはなく、微笑みとお辞儀だけで通し、街を抜けて初めて口を開いた。
「あの子、きっと嫌な顔をするわ」
「…僕もそう思います」
「…貴方の思っているような答えはないと思うわよ?」
精霊はそんなふうに言って風の音に耳を澄ませるような仕種を見せたが、歩いている内に、実際には"耳"とゆう役を果たしているものはない、とか、話せると分かると面倒だから普段は口をきかない、とか、自分やそのカラダの事を少しだけ話し、後は多くの時間"何でもいいから"と僕が話すことを聞いていた。
僕は自分の事を話すのを避けて最後は土や植物や天気の話、それも誰でも知っているようなことばかりを話していたのだけれど、精霊は黙って聞いているかと思うと時々くすっと笑い、時々興味を持ったように目を大きくしてじっとこちらの顔を見る。
「きっとあの子はそんなこと知らないわ」
そんなことをゆう精霊は軽く浮くように歩くその足取りのせいか何処か楽しげで、促されるまま、僕はほとんどずっと喋りつづけていた。