ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 9

「その顔は何?」

わざわざ魔術が使えなかったなどと口にした相手に対して、自分のことを知られているのだろうか、だとすれば先生もずっと知っていたのだろうか、とぐるぐると廻る考えに僕は黙り、そうしているうちに一度は止まった涙があふれて来た。

「…うっ、うっく…ぅ、ぅあーーーん…」

「は!? 何でそんなに泣いてるのよ! ちょっと、やだ…ちっちゃい子じゃないんだから…」

魔術師を前にして泣きたくなど無かったけれど、どうにも堪えられず声を上げて泣き出した僕、冷静な部分では恥ずかしいとも思っていたけれど、声も涙も止めることが出来ずにしゃくりあげる。

それまでずっと強い口調で、ついさっきは殴りつけさえしたとゆうのに、目の前の魔術師はおたおたしているようだった。

殴るとかそうゆう事ではなくこちらに手を伸ばそうとして引っ込め、一歩踏み出しかけたかと思うと後ずさりをする。

"もう、馬鹿ねぇ…"風にのってあきれたような、それでも温かい声が聞こえた。

人に似せた姿でその場に現れた精霊は魔術師の顔に自分の顔をくっつけるほどに近付けると"どうしていいのか判らないなら、せめて泣くのを邪魔するようなことはしない…"と言った後で周囲に魔力を行き渡らせるようにふわりと舞い上がり、その場にいる僕達を包むように、あたたかでどこか懐かしいような、柔らかな気配で満たしていく。

"触れてもいい?"どうやら僕に尋ねたらしい精霊に頷いたつもりはないのだけれど、しゃくりあげた動きがそうゆうふうに見えたのか、精霊は僕をさらに包み込む。

僕は誰かに抱きしめられたかのような感覚の中長い時間泣き続け、泣き止んだ時には少しだけ頭の中がすっきりしているような気がして、精霊に、そして魔術師にぽつぽつと自分のことを話しはじめた。

 

仁王立ちのまま話を聞いていた魔術師だったけれど、僕の話が一通り終わってしばらくすると『はぁ。やられたわ』と僕から身体一つ分離れた場所に座り込んだ。

「やられた…って…?」

「貴方の師は、元々私に魔術を仕込んだ人の知り合いだったのよ。…貴方のことを知っていたかどうかは知らないけど、私のことは聞いていたんでしょう。例えば何か…こんな状況は想定してなかったでしょうけれど…貴方の"ずれ"っていうのかしら、少し変わった子だとは言っていたし、そうゆう部分を気に病んだ時にでも"こんなの"もいるんだ、って引き合いに出すとか、ぶつけてみるとか、なんかそうゆうことでも考えていたんでしょう。単にエテバスとしての顔見知りがいた方がいい、と思っていた可能性もあるけど、あの人、人畜無害そうに見えて割と目的の為なら手段を選ばない人だったしね…」

僕が何も云わずにいると、魔術師は続けて『…とりあえずなんか始めに見たときから昔の自分と重なるような気がしていらいらしてたのよね』と口にした。