ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 37

「出来る?」
「…嘘を、つく、とゆうことですよね…」
「そうよ。でも貴方の為だけじゃない。あの子が自分で考えを整理する時間にもなるはずだから…」

これまで知らなかった工房と依頼について、細工師と言葉を補い合うようにしながらフィユリさんは一通りの説明をしてくれた。
シギーさんから受け継いだ小鬼の持つ技術や知識の上に築かれた細工師と魔術師の腕をかって街の外から人が来るだけではなく、本人の人当たりの悪さもあるのだろうが、普段は魔術師に対して余りよい顔をせずに距離をとっている街の人達からも依頼があるとゆうこと。
工房へと来た依頼の一部、主に細工師の手を必要としないもの…一般的に魔術師と名乗る者であれば誰であろうと大差なくこなせるだろうもの、そういった仕事は、魔術師がこの土地に工房を開いて間もなくの頃から今に至るまで、ずっと、街の外に住む一人の魔術師に回していること。
そして、その魔術師とゆうのが人との会話を苦手としていて、どうやら今は、同居人だとゆう一人の少女と、依頼の内容を伝えるために魔術師の家に足を運んでいるとゆう細工師以外との接触はほとんどないらしいこと。

魔術師自身が受けていた仕事の大部分は断っているらしいけれど、今でも街の外の魔術師に回せる仕事はこの工房の名前で受けていて、細工師が街の外の家まで足を運ぶ以外に、月に一度ほどは外の…二人の間で"彼"と呼ばれていた"レリオ"とゆう名前の魔術師が自分から工房までやって来る、フィユリさんは今来ている依頼からは僕が伝達役を担うようにと口にした。
それと合わせて、僕が伝達役を担うのは"工房の後継としての仕事"だと、"それを指示したのは魔術師自身"だと、そうゆうことにしておくようにと云った。


「整理、ですか…?」
「そう。この工房はあの子にとっては手段だった。シギーが自分を拾ってくれたからこそ遺せる物…それを目指して、どれだけ身を削ることになろうとどこまでもそのことの為だけに生きようとしていたけれど、自分の頭だけでは足りないものがあることを知っていたから。…人間の日常を知ること、実際に触れること、そうゆうものと日々の糧をどちらも得るには、と、不本意ながらもこの形を選んだ。でもね、時が来れば切り捨てるつもりの、ただの手段だったはずの工房に、貴方を含めて、自分たちの生活が染み込んで居ることにも気付いているのよ。だから、自分の思いが遂げられずに終わろうとしている今、あの子の頭の中は誰のことも縛らぬ様に切り捨てなければとゆう思いと、遺さなければとゆう思いがたぶんせめぎ合っているの。…嘘でもいい、その思いを少しでも緩めたい、全部私のわがままよ。あの子と同じとは言えないけれど、貴方ならこの工房を手段にする可能性が全くないわけじゃないでしょう。貴方が後継だと、この場所を継いでいくのだと、そう思えれば、少しは違うかしらって、そう、思うのよ」
いつもなら自分の思いなど殆ど口にしないフィユリさんが言葉として長く紡いだそれは、人が話すときのように感情とともに波打つような事はなかったのだけれど、人形の中にいて尚、強い思いの乗った気配が周囲を満たしているのが、僕だけではなく、細工師にまで伝わって居るようだった。