ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

カティーナの悪夢

目覚めてすぐに波の音を聞いた。

自身から沸き上がる黒い魔力に体力とともに命が削られているのだろうが、背中の痛みが再び意識を失うことを許さない。

あれからどれだけ経ったのだろう。

砂浜に打ち捨てられたらしく、頬は砂に沈み、噛まされた金属と歯の間で小さな粒がじゃりと音を立てる。

視界に入るのは砂と流木と崖。

身体に隙間無く巻かれた鎖のせいで身動きは取れず、脚にかかっていた波飛沫はいつしか腰までを飲み込み周囲の砂を掻き回している。

 

"私が悪いのか"

 

声にならない声は魔力と混ざって呪いのように絡み付く。

 

『お前が悪い』

『お前が悪い』

『おまえがわるい』

『オマエガワルイ』

 

黒い靄を纏った白い姿が次々に現れてはそれだけを言い残して消えていく。

 

『オマエガワルイ』

 

"私が殺した。私が…悪い…"

 

周囲が形を変え、辺り一面が白い。

拘束された身体を強く押さえ込まれ、口の中には血の味が広がっている。

 

『命はとらない』

『だが、これ以上人に近付けぬ様に』

 

"だめだ、私は殺してしまう。やめて。やめて…"

 

黒い靄が広がり、血に染まった建物の残骸が現れる。

 

『この世界の為だ』

『世界を護らねばならぬ』

『綻びは赦されない』

 

"彼は…子供達は何も知らなかった"

 

『知らなかったとは言いきれない』

『遺恨の種は撒かれるべきではない』

 

血に染まった姿で笑顔の子供達が近付いて来る。

 

『遊ぼう』

『ほら、早く』

 

『助けてくれなかった』

 

『また空を飛びたいの』

『ねぇ? いいでしょ?』

 

『助けてくれなかった…』

 

『…助けてくれなかった…』

 

"助けられなかった…"

 

波が顔にかかる。

このまま沈んでいく。

鎖とともに沈んでいく。

罪の重さで沈んでいく。

 

"もう、終わりに…"

 

ティーナさん。

 

『その髪、娘等がつける金の鎖のようじゃな』

『忘れられないならいっそすべてを負えばいい』

『カティーナ』

 

ティーナさん。

 

『…だから鎖…』

 

ティーナさん。

 

「わかりますか?」

ぼやけた視界に黒髪の娘。

ティーナは小さく頷き、瞬きをする。

「よかった」

シャトの声に、カティーナは"夢を見ていたのか"と疲れたように息を吐く。

そして身体を起こそうとしたが、まるで夢の中の出来事を引きずっているかのように、全身が重い。

ティーナは動くことを諦めると、改めて自分の顔を覗き込んでいるシャトへと視線を向け、ぱくぱくと声にならない声で『何が起きたのですか?』と尋ねた。