ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

ある魔術師の記憶 14

岩場での出来事から小一時間後、薄ぐらい室内に点された魔石を背にした魔術師は戸口に立った僕を含めた一団を見てあからさまに顔をしかめていた。

「…何の嫌がらせ?」

戸口からすぐの場所には竜馬を引いた若い女性が一人、引かれた竜馬の背には僕が乗せられ周りには数人の小鬼。

精霊は頭上をたゆたいながら魔術師が嫌な顔をしているのを眺めているようだったが、その姿も人目を引く一因で、通りを行き交う者達もこの取り合わせにちらちらと視線を送り、所々で数人ずつが小さな塊になって何やらこそこそと話をしているのが分かる。

が、僕の周りのはそんな視線も声も気にすることはないようだった。

"その子が怪我して、私の身体も壊れちゃったの。私の身体も荷物も、まとめて運んでくれたのよ?"

「面白いモンを見たからな。他のモンも見てみたくなったんだが迷惑かい?」

「…そうゆうことなら中へどうぞ」

精霊の入っていた人形と資料の包みを分担して運んできた小鬼達は遠慮なく店の中へと足を踏み入れ、壁にかけられたいろいろな部品を手に取り、この前来たときと同じように魔石に魔力を注いでいる魔動人形をまじまじと眺める。

その動きを避けるようにして表に出てきた魔術師は、通りの所々の塊をねめつけるように見回し、そのままの目つきで僕を見上げた。

「貴方、何してるの?」

「…足を踏み外して…」

そんなことを聞かれているのではないことくらい僕にも判るが、とりあえず濁そうとして返した答えに、魔術師の顔がいっそう歪む。

「そんなことは聞いてないのよ…?」

「すみません…」

「めんどくさいわね! 何処痛めたの? さっさと見せなさい。…この子に近付いても構わない?」

僕に苛立ったながれで顔を向けたにもかかわらず、女性に対しては一応の配慮を見せ、魔術師は僕の足に手を添え魔力を込めると手と目に集中して動かなくなった。

しばらくして足の痛みがわずかながらやわらぎ、そのあとでほわっと温まったような感覚につつまれた僕はぱちぱちと瞬きをしながら魔術師を見下ろしていた。

「何? その目は。骨は折れていないわ。一応回復しやすいようにはしたし…。…出来ればそのまま帰ってくれる? お嬢さん運び屋もするでしょう? お代は出すからこのまま…」

「困ります!」

「運ぶのは構いませんけれど、暴れられると困るのでそれだけはそちらでどうにかしてください」

魔術師の言葉に被せるように発した僕の声も聞こえているのだろうけれど、女性は興味がないのか、背中の僕を早く下ろしたい様子の竜馬の頬に手を添え、宥めるように微笑みかけていて、僕は慌てて竜馬の背から飛び降りた。