ノクイアケス

ノクイアケスとゆう世界を舞台にした空想小説。

エマナク 10

「でもあれはあなたの荷物じゃないわよね? うちに商品を下ろしてくれている店からあの荷物が届いた時のワタシの気持ちがわかる? 大好きな"おもちゃ"の匂いに思わず…」

そこからつかつかとシアンに歩み寄りながら早口に、そしてずいぶんと思いが強いのか長々と一人で話し続ける女の口から出るのは聞き方によってはいろいろと誤解を生みそうな言葉ばかりだったが、壁に追い込んだシアンの上に覆いかぶさるのではないかとゆうほどに詰め寄って見下ろした女の潤んだ瞳を傍から見ると、誤解ではないのだろうか、とも思われる。

が、シアンはそんなことはどうでもいい、と言ったふうに顔を歪め、『…気持ち悪っ…』と言い捨てると、目の前の女に向かって炎を発して距離を取る。

「あははははははっ! いいわぁっ!! ワタシの"シアン"はそうでなくっちゃ!」

全身を炎に包まれながら笑い声をあげた女にシアンは身震いし、鳥肌のたった腕を強く擦って『ぅ”~』と唸ったが、大きく息を吐くと意を決したように口を開いた。

「地図渡させた位だ、まだ売ってないんだろ? あの荷物、売値によっては買い戻したい」

「はぁ~ん♪ 熱くてとってもいいか・ん・じ♥」

ぱっと炎が消えると、一切燃えていない服の中で半身は皮膚が焼け爛れて肉が見えるような傷を負い、半身は何事もなかったかのように潤ってキメの整った白肌そのままの女が潤んだ瞳でシアンを見つめ、首を傾げるようにして唇の端を愉しそうに持ち上げる。

「ずいぶん面白い物が入っていたし、高いわよ?」

じゅくじゅくと音が聞こえてきそうな爛れた腕を上げて店の隅を指差した女に従ってそちらへと足を運びながら、シアンは『…悪趣味…ぁ”あ無理…帰りたい…』とずっとぼそぼそと思っていることをそのまま口にしていて、それを聞いた女は更に嬉しそうな顔になってため息をつく。

「…げ…。ありえない」

店の隅に設けられたガラス製の陳列棚にはカティーナの荷物が置かれていたが、そこについた値札は丸一年身を粉にして働いてやっと払えるかどうか、とゆう額が示されている。

「荷物の中身からしたらそれでも安い方だわ」

「そんな珍しい物入ってないだろ!?」

「蜜玉に~、この辺りでは採れない鉱石に~、この世界で作られたのではない物がいくつか♥ 他にもかなり腕のいい魔術師が作ったのだろう魔布とか、この荷物の持ち主にも興味があるわ~」

筋肉、血管、脂肪、皮膚を再生…とゆうよりは再構築、と言った雰囲気で内から順に床に届くほどの髪まで含めた全てを元通りにした女はシアンの背中にそっと寄り添うと、その首筋を撫で、ふふっと軽い笑みを漏らして『会えて嬉しいわ』と言って側の椅子に腰を下ろす。

「駄目元で聞くけど、必要な物だけばらしてくれないか?」

「い・や♥ ワタシが売るのは誰かの日常。買った人がどうするかは勝手だけど、ここにあるうちはそれだけは譲れない」

女がぐるっと見回した店の中には旅人の荷物だったのだろう品がいくつもならべられていて、それぞれにその中身に見合った額の値札がつけられていた。